1 春田と夏目

3/3
前へ
/13ページ
次へ
 「は、春田秀一君!ずっと前から好きでした!」  夏目は中学校の卒業式の日。  春田を星の咲く木の下に呼び出した。  辺りは日が暮れ始めて、空は茜色から藍色へ徐々に変わっていき、雲が彩りを添えて、瞬き始めた星が空を飾る。  丘の上に立つ大きな木の前で向かい合う、少年と少女。  組んだ手を、お腹の前で握りしめ、頬を赤く染めながら、一気に言葉を叫んだ夏目は、春田の顔が見られず、ぎゅっと目をつぶった。  突然の告白に、春田は少し目を見張った。  そして…  「ありがとう、夏目」  春田の性格のまま、芯の強い、けれど優しい声が聞こえる。  それに誘われるように恐る恐る顔を上げた。  春田は真っ直ぐな性格そのまま、しっかりと夏目を見ている。  「気持ちは嬉しい」  その言葉に、夏目は舞い上がってしまいそうだった。  「けど、ごめん」  春田は深々と夏目に頭を下げる。  「夏目の気持ちには応えられない」  そして、春田は顔を上げ、もう一度夏目を見ると、その場から立ち去る。  わかって、いた。  夏目にはわかっていた。  少し前、告白した女子がいた事を。春田がその子を受け入れたことを。  心配になる程真っ直ぐで、こうと決めたら曲げなくて、誰よりも優しい。    …だから。  そんな春田だからこそ、自分を振るだろうと。  夏目が好きな春田だからこそ、自分は振られる。  わかっていた。  夏目の頬を、涙が伝う。  幹に寄りかかって見上げると、星が咲いている。  (恋が叶うなんて…嘘っぱちじゃん…)  涙で滲んだ星を、夏目は見続けた……。        
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加