8人が本棚に入れています
本棚に追加
「は、春田秀一君!ずっと前から好きでした!」
夏目は中学校の卒業式の日。
春田を星の咲く木の下に呼び出した。
辺りは日が暮れ始めて、空は茜色から藍色へ徐々に変わっていき、雲が彩りを添えて、瞬き始めた星が空を飾る。
丘の上に立つ大きな木の前で向かい合う、少年と少女。
組んだ手を、お腹の前で握りしめ、頬を赤く染めながら、一気に言葉を叫んだ夏目は、春田の顔が見られず、ぎゅっと目をつぶった。
突然の告白に、春田は少し目を見張った。
そして…
「ありがとう、夏目」
春田の性格のまま、芯の強い、けれど優しい声が聞こえる。
それに誘われるように恐る恐る顔を上げた。
春田は真っ直ぐな性格そのまま、しっかりと夏目を見ている。
「気持ちは嬉しい」
その言葉に、夏目は舞い上がってしまいそうだった。
「けど、ごめん」
春田は深々と夏目に頭を下げる。
「夏目の気持ちには応えられない」
そして、春田は顔を上げ、もう一度夏目を見ると、その場から立ち去る。
わかって、いた。
夏目にはわかっていた。
少し前、告白した女子がいた事を。春田がその子を受け入れたことを。
心配になる程真っ直ぐで、こうと決めたら曲げなくて、誰よりも優しい。
…だから。
そんな春田だからこそ、自分を振るだろうと。
夏目が好きな春田だからこそ、自分は振られる。
わかっていた。
夏目の頬を、涙が伝う。
幹に寄りかかって見上げると、星が咲いている。
(恋が叶うなんて…嘘っぱちじゃん…)
涙で滲んだ星を、夏目は見続けた……。
最初のコメントを投稿しよう!