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実行委員本部のテントで、並んで座っていた春田と夏目の前では、体育祭、最後の種目。対校リレーが始まっていた。
春田と夏目を含む実行委員会が駆けずり回ったおかげもあって、二校合同体育祭は、大成功で幕を下ろすことが出来そうで、二人はほっと胸を撫で下ろす。
接戦のリレーを見ながら、春田は口を開いた。
「夏目、ありがとう。夏目がいなかったら、ここまで来れなかったと思う」
「…春田…」
「夏目はすごいな。俺と違って頭が柔らかくって」
「え?ちょっと馬鹿にしてる?」
「してないよ。本当に、助かった。ありがとう」
春田は、夏目に手を差し出した。
その、春田の顔を見た瞬間、夏目の心臓が跳ねる。
今走っている生徒と同じような全力疾走を始めた心臓が、うるさい。
「夏目?」
「こ、こちらこそ!ありがとうね!」
熱を持った手を体育祭の興奮に紛れさせて、再び、ぎゅっと力を込めて春田の手を握った。
ちょっと痛そうな顔をしつつも、春田と夏目は笑い合ったのだった。
しかし、楽しい反面、夏目は少し焦る。
(困ったな…)
春田と再会してから、一度振られた時に封印した気持ちの蓋が、カタコトと暴れ出していることには気づいていた。
今もまだ、春田があの時の彼女と付き合っているかはわからない。
わからないが、一度、自分はキッパリと断られているわけで…。
この想いの蓋は決して、開けてはいけない。
そう思っていたのに。
さっきのやりとりで、その努力も無駄になりそうだった。
その、焦りから夏目が間違った選択をしてしまったのだと気づくのは、数日後の事になる…。
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