2 神様のいたずら

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 「夏目愛子さん。俺と付き合ってください!」  場所は、あの丘に立つ。  星の咲く木。  空には無数の星が輝く。  夏目の目を真っ直ぐに見つめ、手を差し出す春田。  夢だろうかと、一瞬思ってしまうような、待ち望んだ瞬間。  の、はずだ。  あの体育祭の日までは。  いっそのこと、手を、取ってしまいたい。  取りたい。  けど…取れない。  取っては、いけない。  なぜなら、今、夏目には、彼氏がいるのだから。  そう。あの日、焦りを感じた夏目は、あの後告白してきた同じ学校の男子と、付き合うことにしてしまったのだ。  春田を忘れたいが一心で。  まさか、振替休日となった翌日に、春田から星の咲く木に呼び出されるとも知らずに。  一瞬、手を取ってしまおうか。  と、ズルい考えがよぎる。そして、彼氏にすぐ連絡すればいい。  「やっぱりやめる」と。  ……しかし、それは彼氏にも酷いことをするし、何より、それを知ったら春田はどう思うだろうか…。    誰より真っ直ぐで、曲がった事が嫌いな春田。  自分のズルい考えを、春田はどう思うだろう。  (嫌われたくない…)  そう思うなら、ここで夏目が出来る答えは、たった一つ。  「ごめん、なさい…」  頭を下げた夏目は、春田の顔が見られなくて、顔が上げられない。  「……そうか。わかった」  硬い声でそう言った春田。  「聞いてくれてありがとう。夏目」  少し、和らいだ口調でそういうと、頭が上げられない夏目の前から、春田が去っていく気配がする。  ハッと顔を上げた夏目が見たのは、丘を去ってゆく、春田の背中だった。  「は…るた……春田ぁ…」  夏目の目から、涙がとめどなく溢れ出る。  木の幹に寄りかかって見上げた葉と葉の間には、星が咲いている。  (もう、恋が叶うなんて誰が言ったのよ……)  涙で滲んだ星は、夏目には見えなかった…。    
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