プロローグ

1/1
前へ
/13ページ
次へ

プロローグ

 その木は、小高い丘に一本だけしっかりと根を下ろし、まるで周りを見守っているかのようにそこに立っていた。  夜になり、その木の幹に背を預けて見上げると、折り重なる葉の間から夜空に瞬く星々が見える。それが、まるで星が咲いているように見えるので  「星の咲く木」  地元の若者の間では、そう呼ばれていた。  (懐かしい…)  私が、夫の転勤でここを離れてからもう10年以上になる。  その間、両親の様子を見に帰って来たことはあったけれど、この木に会いに来るのは、本当に久しぶりだ。  幹に触れ、感触を楽しんでいると…  「ここにいたのか」  振り返ると夫が立っていた。  「懐かしいな、この木」  「…ええ。そうね」  二人で木を見上げると、柔らかな風が吹き抜けてゆく。  「君と、僕の縁を結んでくれた木…だな」  そう言った夫に微笑みかけ、私は再び、星の咲く木を見上げた。  若者の間では、もう一つ。今でも言われている事がある。  この木の下で告白すると恋が叶う。  私は、ここであった出来事を思い出していた。  私の、恋の物語を……。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加