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「ふう…一時はどうなることやと思うだけど、何とか食えそうな物に仕上がったな。」
「ホントホント。最初見た時はギョッとした食材ばかりかなと思ってたけど、意外に食べれそうなものもあったしね。」
「証拠も綺麗に隠滅しましたしなぁ!おっと!これは検事としては御法度なセリフですかな?」
「だろうよ。事情知らねー奴に聞かれたら、部長に報告されっぞ?」
「ははは!そう堅く考えるな檜山!冗談だ冗談!!」
「とか何とか言って、殆ど作ったの私と楢山君じゃない。特に棗君なんてまともな戦力にもならなかったくせに、さも自分は貢献したような口ぶり。ほーんと、ウチの男どもはお調子者ばっかでやんなっちゃう。」
すっかり気の緩んだ面々を一瞥して、鍋の仕上げをしながら愚痴る奈々子の横で洗い物をしていた賢太郎は眉を下げる。
「櫻井先輩、お疲れでしょ?よろしければ自分が火加減見てますよ?」
「あ、あらっ!ごめんなさい楢山君!そう言うつもりで言ったわけじゃないの!…でも、優しいのね。なんか、奥さんが羨ましい…」
言って、奈々子がピトリと肩に寄りかかってきたものだから、賢太郎はドキリとする。
「ねぇ、楢山君。今度2人で飲みに行かない?私最近、彼氏に可愛い気が無いって言われてフラれたばかりなの。慰めて…?」
「は、はぁ…まあ、お話くらいなら、聞きますが?」
「ぅん野暮天!学生の失恋相談じゃ無いのよ!もっとこう…オトナの慰め方ってぇ…あるじゃない?それともまさか、女に言わせる気?」
「いや、と言うか先輩火加減…」
「んー、楢山君がぁ、お酒付き合ってくれるって約束してくれるなら、真面目にする♡」
「はあ、まあ、酒の席なら喜んでご一緒しますが、自分小遣い制なので、出来れば割り勘でお願いできますか?」
「……えっ?な、楢山君、財布の紐奥さんに任せてるの?」
「そりゃそうでしょ。家庭のことは妻に任せてますから。いつでも自由にお金を動かせないと、妻が何かと不便でしょうし、自分的には合理的な判断だと思ってますし、窮屈にも感じてません。」
「へ、へー…は、ハハハ…そう、なんだ。」
「?」
さっきまでの誘惑的な態度はどこへやら。
静かに引いて行く奈々子を不思議そうに見ながら、賢太郎は洗い終わった調理器具を棚に戻しに行く。
「…顔は良いのに、何あの所帯染みた発言。あーあ、女見せて損した。折角繋ぎのセフレにでもしようと思ったのに…」
愚痴愚痴言いながら、奈々子が鍋の仕上げをしようとした時だった。
「ん?」
ふと、民子の持ってきた食材の入っていた袋の中に小さな瓶が残っていることに気付き、奈々子は舌打ちする。
「何が完璧に隠滅よ。詰めが甘いったらありゃしない。もー、なによこれーー」
言って瓶のラベルを見た瞬間、彼女の中の悪魔が目覚める。
「…慢心は足元を掬われる元。そして何より、昨日の友は今日の敵。…ってね♡」
不敵に笑い、奈々子は楽しげに話す男性検事達の目を盗み、その瓶の中身全てを密かに鍋の中へと入れて、何事も無かったかのように鍋を仕上げ、蓋をした。
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