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「……なんか、怪しい。」
「えっ!?」
ギクッと肩を揺らす面々をジトリと睨みながら、民子は特に引き攣った表情の藤次の前に立ち腕組みをする。
「なーんか、引っ掛かるのよねー。他のメンツはともかく、君が私を祝うなんて…こんな素敵な秋晴れだけど、午後からスコールかしら?」
「な、何ですか姐さん。い、いつまでも僕をガキ扱いせんで下さいよ。これでも世帯もって、人間丸なったつもりなんですよ?」
「あら、なら私の手料理、喜んで食べてくれるわよねー?なーつーめー君?」
「いや、だからそれはー」
そうして、藤次がどんどんしどろもどろになって来た時だった。
民子のスーツのポケットに入っていたスマホが、小さな電子音を響かせたのは。
「なによこんな時に…え?影山?さてはまた何かやらかしたわね!ホント、名前の通り陰気な使えない奴!!」
チッ!と、スマホの液晶の文字を見ながら毒づくと、民子はにっこり微笑む。
「なんか色々腑に落ちないけど、急用も出来たし、ご好意に甘えて調理はみんなに任せるわ!じゃ、よろしくー」
言って踵を返し、ガミガミとスマホに向かってがなる民子の背中が見えなくなると、一同は盛大にため息をつく。
「き、肝が潰れた。サスガ腐っても京都地検一、大阪地検特捜部に近い遣手婆。危うく看破されるとこやったわ。」
「ば、婆なんて失礼だよ棗!大体、民ちゃんまだ50いってないんだからっ!」
「まあでも、年増は年増ですぞ柏木検事!しかも、自分のデータが正しいなら×は自分より一つ多い!完全な出戻り行き遅れの役満ですなぁ〜」
「…大塚も棗も、それ、事実とは言え口裂けても本人の前で言うなよ。」
「そうそう!檜山君の言う通り!それに、さすがにババアは酷いわよ棗君!そうねー良くてお局様とか!」
「フォローになってないですって、櫻井さん。」
「あら、そう?」
「まあ何にせよ。これで一件落着やな。さて、部屋戻って昼飯」
「えっ!?まさか棗、これ放置して一抜けする気?!」
「何が。柏木かて知らん顔してトンズラすればええやん。」
「だ、ダメだよ!ま、まさか棗!守衛の中森さんの噂、知らないの?!」
「はあ?」
何やねんと眉を顰める藤次に、噂好きの大塚がズイッと近寄る。
「棗、ここに来た時、中森さんになんて言われたか覚えてるか?」
「え?あー…確かぁ、『派手に汚さないでくださいね』やったような。」
それが何やねんと腕を組む藤次に、大塚は怪談話のように声を震わせ囁く。
「中森さん、あー見えて同僚すらドン引きする極度の潔癖症なんだ。本来なら自分が守衛の日は部屋に誰もいれたくない。」
「そやし、今日簡単に入れてくれたやん。」
「それは、俺達が反抗できない検事だからだよ。ウチの葛城なんか、郵便物取りにちょっとでも守衛室に入ろうものなら、すんごい剣幕で、頭から靴まで入念にアルコール除菌されたって、震えてたぞ?」
「そうそう。確か原田検事のとこの山根さんも、同じ目に遭ったって言ってた!でも、棗君が知らないって不思議。女性事務官を持つ検事の中じゃ、コレ結構有名な噂だよ?」
「そ、そう言われても櫻井さん姐さん、ウチの京極ちゃん、そんなん一言もこぼした事ないですわ。」
「単に人望ないだけじゃねーのか?」
「なんやと!!」
茶化す檜山に噛み付く藤次だが、柏木と大塚と賢太郎が、何やら言うべきか言わずべきかと渋い顔をして自分を見てるので、藤次は眉を顰める。
「な、なんね3人とも。そない妙ちきりんな顔して…お前らまでワシに人望がない言うんか?!」
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