ドキッ!検事だらけの闇鍋大会⭐︎

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「いや、流石にコレはお前の耳に入れて良いかどうか迷うと言うか…」 「そ、そうそう。知らぬが仏って言葉もあるし、なにより佐保ちゃんの名誉に関わると言うか、何というか…」 「まあ、俺は笹井からの又聞きだから、何とも言えないがな。」 「はあ…」  どうにも歯切れが悪い3人を不思議そうに藤次が見つめていると… 「あら、いつまで経っても帰って来ないと思ったら、こんなとこで油売りですか?検事。」 「き、京極ちゃん?!」  ーー正に運命の悪戯。  聞き慣れた声のした背後を振り返ると、そこには執務室で食事をしていたはずの…今正に話の種にされていた佐保子が、やはり話の種の中森守衛と並んで立ったいたので、藤次は瞬く。 「な、何故京極ちゃんが、守衛はんとこないなとこに?」 「その言葉、そっくりそのままお返しします。大体、検事が指示したんじゃないですか。午後イチ使う資料が昼休みに守衛室に届くから取りに行って来いって…全く、ご自分は午後の用意もせずに中森さんの手を煩わせて、守衛室で悪巧みですか?結構なご身分ですこと。」  そう言って、佐保子は中森の目の前で守衛室に入ろうと脚を伸ばしたので、藤次は待ったをかけようとしたが… 「へっ?」  ツカツカとヒールを鳴らして、何食わぬ顔で守衛室に入って、自分のフロアのメールボックスを開いて中身を確認する佐保子に、中森は当たり前について行く。 「し、守衛はん!後生やからウチの京極ちゃんに」 「は?」 「!」  僅かだが、ドスの効いた低い声色と鋭い眼光に、藤次はビクッと肩を震わせ言葉を詰まらせる。 「あ!あったあった!!でも、さすが中森さん!どこかのバカ検事とは違って、いつも絶妙なタイミングで、しかも的確に郵便物を仕分けてくれててありがとうございます!!」 「いやいや。事務官さんの仕事を少しでも手助けできたら嬉しいですよ。…あ、ちょっと、失礼。」 「?」  言って、中森はいとも気安く佐保子の肩に触れ、抜け落ちてスーツについた彼女の髪の毛を取る。 「あ、ありがとうございます!じゃあ検事!くれぐれも中森さんにご迷惑かけないで、さっさと戻って準備して下さいね!」  そう言って立ち去って行く佐保子の背中が見えなくなった刹那だった。  中森が手早く、しかし慣れた手つきで、佐保子の髪の毛をポケットに入れていた小さなジップロックに仕舞い込み、凍りつく藤次をジロリともう一度睨みつけ、他の検事達にはペコリと会釈をして、何食わぬ顔で自分の業務に戻って行った。 「な、なあ大塚…もしかしてが、ワシの耳に入れたなかった、噂話の続き…」 「ま、まあ…平たく言えば、そうだな。と言うか、もうバレたからぶっちゃけるが、中森さん、これまたドン引き必至な重度のロリコン気質で、Bカップ以上の女にゃ興味がないと言うか、敵意すら感じるらしい。檜山のとこの葛城や、原田検事のとこの山根なんかが、良い例だな。」 「因みに、ウチのなっちゃんも被害に遭ってるよ。こういうとセクハラになるけど、なっちゃんも結構胸あるでしょ?だからなるべく、巨乳の事務官を持つ検事は、中森さんが守衛室に居る時は近づけないようにするのが暗黙のルールと言うか…」 「更に言うなら、中森さんが親の仇以上に憎んでる男が、この地検に2人いる。1人はウチの笹井。もう1人は棗、お前だ。」 「はあっ?!さ、笹井は京極ちゃんの彼氏やから分かるけど、何でワシが?!」 「その『ちゃん』呼びや、普段から日常会話のように、ナチュラルに京極さんにセクハラ発言してるのが、堪らなく許せないそうだ。笹井曰く、お前が検事職じゃなかったら、確実に自分みたいに熱湯で煮沸消毒されかねないって、同情してたぞ?」 「しゃ、煮沸?!」  戦慄する藤次に、大塚はもうこれも言ってしまえと口を開く。 「ダメ押しに一つ忠告しとくぞ?お前金輪際、中森さんが守衛室にいる時、嫁さんを地検に近づけるな。棗藤次の妻だってバレたら、何されるか分かったもんじゃないぞ。」 「はあっ?!な、何で絢音にまで危害が」 「中森さんの中じゃ、お前と京極さんはデキてるって事になってんだよ。笹井なんて言葉は悪いが彼女にまとわりつく虫みたいなもんだ。いつでもどうにでも出来る。ただお前は、反抗できない検事職。しかも最近結婚までした。中森さんにしてみりゃ、お前の奥さんは京極さんからお前を奪った、悪女なんだよ。」 「な、なんっやそれ!!全部まるっとあのド変態の誇大妄想やん!!何でそないな奴が平々凡々とこの地検の警備しとんねん!!下手なテロリストより悪質甚だしいわっ!!」  俺に噛みつかれてもなぁとボヤく檜山に当たり散らした所で、藤次の怒りは収まらず、取り敢えず一発奴を殴りに行こうと拳を握りしめた時だった。 「ねえねえ、なんか中森さんの話で盛り上がってるけどさあ、こっちはどうするの?」 「ハッ!!」  奈々子の言葉で、一同はそうだと我にかえる。 「せや!姐さん帰ってくるまでに、このゴミの山選別して、当たり障りのない鍋作らな、あのド変態より確実に、ワシらに実害が発生するんやった!!」 「だな。」 「確かに。」 「そ、そうだね。マスコミや傍聴マニアの餌食になるのだけは、ごめん被りたいよね。」 「そうそう。いつ来るか分からない天災より、確実な人災を防ぐ。常に合理主義なのが、検事たる者のポリシー」 「同感ですね、櫻井先輩。時間も押してますし、ささっと始めましょうか。」  言って腕まくりをする賢太郎の言葉に一同は頷き、民子に悟られないような絶妙なバランスで食材や調味料を選別し、弾かれた生ゴミに等しいモノは素早く袋に入れてゴミ捨て場のシュレッダーゴミの中に隠すように捨てて、どうにかこうにか、民子が戻って来る前に、藤次の言う当たり障りのない闇鍋が、完成した。
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