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「先生、さようなら。皆さん、さようなら」
「じゃあね~また明日~」
「ねぇねぇまたでたんだって!」
「また、給食室にゴキブリでも出たの~?」
「ちがうよ、天狗だよ。また、夜の町を駆け回ってたって」
「UFOとみまちがえたんじゃない?」
「俺が捕まえてやる! この前、母ちゃんの知り合いの占い師に前世を占ってもらったら、俺は狩人だった! 一発で叩き落としてやるぜ」
「近所の窓ガラスをぶち破って、修理代の請求書を叩きつけられる未来がみえるぜ」
「でも天狗なんかほっとけばよくない~。空飛び回ってるだけでしょ~」
「天狗は子供を拐うってきくよ! でも、最近の家って鉄やコンクリートで固いでしょ? ぶち破って入れないみたい」
「あ、まって……」
「ゲ……『呪いの人形』」
「天狗よりコイツのがぶきみ……」
灰色。
灰色に染まった空。
灰色に染まった目。
灰色に染まった日常が今日も終わるね。
もう太陽が眠る時間だ。
すこしよそよそしくさみしそうな夕日を見ていると、世界平和もしくはどうでもよいことを祈りたくなる。
(神様、この祈りが聞こえていましたら、どうか私に心をお与えください)
がしゃん!
(祈りが通じて隕石でも降ってきたのか?)
しかし、机におかれていたのは、ビーカーの入ったトレーだった。
「あいかちゃ~ん♡みゆゆ、今からレッスンだから理科準備室にこれ運んどいて欲しいなの~」
痛い……
みゆゆちゃんは、私の足を踏みながら、ニコニコしている。
みゆゆちゃんは私のおとなりの席の子で、今日の日直だった。
うわさによれば、町を歩いていると芸能プロダクションにスカウトされたみたいで、アイドル活動をしているんだって。
こうして雑用を頼まれることはよくある。
まぁ断る理由もないから、さっさと運んでしまおう。
夕暮れの廊下に、子供たちの影法師。
放課後の教室の廊下は、リコーダーの音がする。お腹がすく時間だからか、放課後の足音はいつだって、ものさみしさをふくんでいる。
(心がもしもあったら友達がもっとできるのかな)
でも、友達ができたとしても、やりたいことは特にないよ?
それに、昆虫図鑑を読んだ時、昆虫さんに心は見当たらなかった……じゃあ、虫さん達は、お友達がいないのかな。でも、彼らはたくましく生きている。いなくても、困らないんじゃないかな。
(いつか、解体と採取活動を行う必要があるのかもしれない。検体として……そういえば、かふうちゃんの家は『天然の』ゴキブリ養殖場ときいたことがある)
ガラガラガラ……
「……!」
「ん?」
理科準備室には先客がいた。
同じクラスの空木君だった。
緑色の液体の入った小ビンをもっていたんだけど、私をみるなり、制服のポケットにしまっちゃった。
「それ、日直の仕事でしょ?」
こくり。
「そっか、君、ひいらぎさんにいじめられているんだ」
(ひいらぎさん? ア、みゆゆちゃんのことか)
「ビーカー片づけるんでしょ、ボクも手伝ってあげる」
空木君が手伝ってくれたから、片づけ作業はとても早く終わった。
「君、皆から『呪いの人形』とか呼ばれているよね」
「……うん」
たしかに髪が長くて影に包まれたような見た目は、日本人形みたいだ。お母さんは髪が長い方が女の子は可愛いといっていたけど。
「つらかったら先生にいいなよ」
(先生も状況をしってるとおもうけど……)
「……うん」
「君、肌がとても白いね」
「……?」
「写真、撮っていいかな」
「……いいよ」私の了解を待つことなく、空木君は携帯カメラをとりだし撮影を開始した。
(かふうちゃんみたいに笑ったほうがいいのかな)
「笑わないで」
(……考えを読まれた?)
「そのままでいいよ」
空木君が帰ったあと、薬品棚をしらべてみた。この緑色の液体は、物質の酸化と腐蝕を防ぐものだった。
(自転車のホイールが錆びついたのかな?)
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