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「昨日のテレビ見た?」
「窓ガラス割る時にガムテープで音消したとかいうトリックのドラマ?」
「今度ヒーローショー一緒にみにいこう~」
「だれかー、今日の理科のプリント写させてー」
「なぁなぁ! 天狗どんなのだった」
「やっぱりでけー羽が生えてるの?!」
「いや、羽は生えてなかったらしいよ。かわりに刃物をもっていたんだって」
「天狗ってでかいウチワもってるんじゃね」
「キュンキュン……」
「それはチワワやん」
「全校集会だりー。天狗ごときでそんなんすんなよー」
「先生たちは不審者だと思っているみたい」
(……そういえば、校門にパトカーが止まっていた)
「おはよう、あいかちゃん♡」
今日もみゆゆちゃんは、にこやかなアイドルスマイルで、私の上靴をふんでくる。
「ちゃんと来てえらいなの。お母さんには、うまくいったなの?」
「……うん。あの」
「? どうしたなの?」
じつは昨日、帰り道にみゆゆちゃんの写真が掲載されている雑誌を買った。リビングで読んでいると、お母さんが「その子かわいいわねぇ」と絶賛していた。
(サイン書いてもらえば、お母さんよろこぶかも?)
「ア、わかったなの、よしよししてほしいなのねっ♡」みゆゆちゃんが私の頭をなでたタイミングで、空木君が登校した。「あ! 空木君、おはよう! なの♡」
「あぁ、おはよう」
空木君は絆創膏の巻かれた私の小指をみつめ、やがて、なにもいわずに席についた。
「……?」
給食を食べおえると、いつのまにか一枚の紙が机の中に入っていた。
「今日の放課後、旧校舎の◯◯教室に一人できてほしい」
たしか、旧校舎はいずれ、取り壊されるんだよね……。昔、いじめられた子が放火したみたいで、いろんな場所が真っ黒。白いカーテンがゆれるさまは、夕暮れ時には幽霊にみえる。子供たちがおもしろがって立ち入るから、鍵がかかっていたはずだけど。
放課後、旧校舎にむかった。
耳をすませば、どこからかリコーダーの音色が誘いかけてくる。
(正面玄関の鍵があいている。それから、埃だらけの下駄箱の床には新しい足跡)
「やぁきたね」
指定された教室に入ると、空木君が机に腰かけていた。彼は私の顔をみるなり、ランドセルからなにかをとりだした。
それは、一着の赤色のドレスだった。
(子供用の小柄なドレスだ……。高価な装飾品はないけれど、仕立てが丁寧で、かつ上質な布を使っている)
「君のその指」
「……?」
「ひいらぎさんに傷つけられた?」
「……」
「そうか。あのクソメスが」空木君は、ガンっ! と机を蹴飛ばした。
「ハァハァ……あぁ、ごめんごめん。あのね、ボクは人形の蒐集家なんだ……。君のことを『完全なる』状態で、蒐集したい」
「……!」
空木君はいつもと同じように、微笑みをうかべている。でも、なにも写っていないその瞳は、それこそ人形のよう。
「呪いの人形……。君は皆からそう言われているけど、あいつらは審美眼に欠けている。バカの集まりさ……。君は心がどこにも見当たらない『最高傑作』の人形だよ、ボクが保証する」
(……空木君は、私の心が欠損していることにきづいている?)
「それでどうする? ボクのコレクションになるかい? もしもなるなら、君はもうボクの所有物だ、傷つけようとするやつは排除する。金がほしいなら言い値をきくよ」
「……お金は、いらない。うん、なるよ」
「フフフ……、ボクのコレクションになるなら、そのことば遣いを改めたまえ。ボクと二人の時は、敬語を使ってごらん」
「……はい、空木君」
空木君は不敵に笑うと「お遊戯会を始めよう、その見窄らしい服を脱いで? ドレスにきがえさせてあげる」といった。
そこから私はただの愛玩具だった。
空木君ののぞむ服を着て、空木君ののぞむ
ポーズをとり、空木君ののぞむ舞いを披露し、そして、その姿を写真に保存された。
「笑わなくてよいのですか」
昨日買った雑誌に載った、みゆゆちゃんの笑顔をおもいだす。
「あぁ、人形は無表情だからこそ美しい」
「……」
「君は最高だよ」空木君は微笑みながら、シャッターをきりつづける。
「……?」
「以前もパパに頼んで、肉製の人形をとりよせた。けれど、どれもこれもメスの本能という下らない心をもった、愚作だった……でも君は、どこからどうみても、ただの人形さ……。これがボクの求めていた完全なるドールだ……っ!」
お遊戯会が終了すると、空木君は私の髪をブラシでといた。
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