モブ子、王子が気になる。

1/1
前へ
/10ページ
次へ

モブ子、王子が気になる。

 ここはタイトル「エスロランテ学園で恋をしよう」ヒロインと、攻略者対象たちが恋愛をする乙女ゲームの世界。その世界に私はモブとして生まれた。この世界が、乙女ゲームの世界だと気付いたのは12歳、お父様とお母様がエスロランテ学園の卒業生だと聞いたとき。 (エスロランテ学園? え、あの乙女ゲームと同じ学園? 私、もしかして乙女ゲームの世界に転生してる?)  そうだ前世、両親との旅行中に事故で……この世界に転生したみたい。男爵家で、名前もあるけど、ゲームには出てこないモブだけど。どうしても乙女ゲームの舞台が見たくて、エスロランテ学園に通いたいと、両親に頼み込み入学した。  華やかな攻略対象、可愛いヒロイン、美人な悪役令嬢。  ゲームの主役たちを、遠目でもいい傍観できると思っていたのに…… 「フウッ、後を追ってきてはいないわね」  入学して1週間が経つ。私はいま、エスロランテ学園の庭園の茂み、庭園の隅っこの隅っこに身を潜めている。コソッと茂みから顔を出して周りを見渡し、誰もいないことを確認して、ホッと息を吐いた。 「もう、なんなのあの王子は! 朝から大勢の生徒がいる中で、私の名前を呼んで近寄ってくるなんて!」  朝から、爽やかイケメン……じゃない。  すごく驚いたし、恥ずかしかった。    私の男爵家は辺境地付近にあるから、王都にあるエストランテ学園には通うには4、5時間かかってしまう。そのため、学園に入学して寮生活になったのはいいのだけど……。  入学のとき、たくさんの生徒がいるエントランスで王子を押し倒したからか、寮住まいのご令嬢達に「ほら、あの子」「男爵の癖に図々しいわね」と、ヒロインが言われる陰口を言われて、睨まれた。  そんな肩身の狭いなか、あんなイケメンの王子に名前を呼ばれるなんて、ますますご令嬢達に睨まれるじゃない。 (イストリア王子を狙うご令嬢の嫉妬は怖い。私は静かに、乙女ゲームを楽しみたいだけなの〜)  と茂みの中で、持ってきたノートをひろげ調べたことを書いていた。  え、何を書いているかって?  それは入学のときに押し倒してしまった、王子のこと。私は彼の存在が気になった。なにせ、彼は乙女ゲームにいたのか、わからない人物。  もしかして、危険な人物だったら近寄りたくないと。  早朝、謎のイストリア王子のことを知るために、噂話に詳しそうな寮の食堂のおばちゃんと、掃除のおばちゃんの、仕事をお手伝いしながら話を聞いてきたのだ。  食堂と掃除のおばちゃんは噂話が好きで、休憩時間のときに、事細かく彼のことを教えてくれた。  彼はエレメント国の第二王子で、名前はイストリア・エレメント。第一王子、第三王子とは母親が違う、腹違いの兄弟。最近まで城に引きこもっていて、舞踏会、誕生会などの催しにも参加したことがない謎の王子。 (へぇ、そんな王子が学園に通おうと思ったのはどうしてかな? やはり乙女ゲームに関係している?)  おばちゃん達の話で彼の正体がわかった。引きこもっていたからか、色白だったけど……サラサラなサファイアの髪と、綺麗な金色の瞳。スラッとしていて、私よりも身長が高くて…… 「かっこよかったなぁ〜」 (見た目はかなりタイプだった。あの王子が、乙女ゲームの攻略対象だったら推していたかも)  ペンを握り、彼の似顔絵をノートに描きながらボソッと呟いた。   「ねぇ、誰がかっこいいって?」 「え? 誰って、イストリア王子だよ……って」  誰もいないはずの庭園の隅も隅で、私は誰と会話をした? 声がした方へ振り向こうとした私の頬に、柔らかなものがふれた。  ――え? 何?   横を向くと、な、な、なんとそこに、まいたはずのイストリア王子がいた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加