モブ子、悪役令嬢に会う。

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モブ子、悪役令嬢に会う。

「ナルはこんな所にいたんだね、探したよ」    隣でニコニコと笑う、イストリア王子。  その王子に、私の独り言を聞かれて、頬に……柔らかな物が触れた?   まさか、キスした……⁉︎ 「どうした、ナル? いきなり、頬が真っ赤になったけど」   「それは……殿下が頬にキスしたからです!」 「フフ、そうだね」  楽しそうねイストリア王子を見ながら、似顔絵を描いたノートをソッと閉じた。このノートにはイストリア王子の似顔絵の他に、彼のこと、乙女ゲームの内容を書いたマル秘ノート。  だけど、王子はこのノートは気にならないらしく、私をじっと見てくる。その王子を見て、私は首を傾げた。 「どうしたんですか、イストリア殿下?」 「それ! 俺の呼び方が違う。昨日、許す代わりにリアと呼べと言っただろう?」 「あっ……」  スッカリ、忘れていた。  王子が昨日の事を許してくれるなら、呼ばなくてはならない。 「わかりました、リス様と呼びますね」 「うむ、許す。これからそう呼べよ、ナル」  うおっ、キラキラ、イケメンスマイルに慣れていない私は目を瞑った。    それがいけなかったのか、王子が近づいてくる感じがする。「ナル」と私の名を呼び、彼の手が私の頬に触れたとき。茂みに近付く足音と、甲高く甘ったるい声が聞こえた。 「待って〜、セルベンスさま~ぁ」 「ディスコリア嬢、いい加減にしてください」 「なあ~んでぇ~よ~。わたしのことはリリーと呼んでって言ったでしょう〜」 「「⁉︎」」  なんだ、あの面白い喋り方は? 何かしようとしていた王子から離れて茂みから少し顔を出すと、近くに黒い髪の男性とピンク色の髪の女性がいた。  ――あ、あのフワッフワなピンク色の髪は、この乙女ゲームのヒロイン、男爵令嬢のリリス・ディスコリアね。  見た目は可愛いのに、あの甘ったるい喋り方は乙女ゲームのヒロインとはかけ離れてるし、少しキツくないか。 「あ、待ってぇ〜」  そのヒロインが追いかけている男性は、イストリア王子とは腹違いの第一王子セルベンス・エレメント殿下だ。おお、王子とは違うイケメン、乙女ゲームで好きなキャラだった。彼とヒロインの恋は手を繋いだり、デートしたりと王道だったなぁ。  そんな2人のやり取りを一緒に見ていた、イストリア王子は大きなため息をついた。 「また、あの女性は兄上に引っ付いて……兄上が城へ帰ってきたら、そうとう機嫌が悪いな。当たり散らされる、こっちの身にもなってくれよ」  隣で、渋い顔を浮かべている。 「リア様は、あの子の事を知っているの?」 「ああ、知ってるも何も……学園に入学してから、やたらセルベンス兄上に近付いてくる、変な女性だ」  ヒロインが変な女性?  うーん。イストリア王子もヒロインに興味なさそうだし。攻略対象の、セルベンス殿下も迷惑そう。  ……なんでだ?  ヒロインの見た目は、乙女ゲームと同じで可愛いが、あの面白い喋り方がすべてを台無しにしてる。それに気付かないリリスは、嫌がっているセルペンス殿下に「セル様〜」と、?腕に引っ付いた。  おお、やるねぇ。  嫌がる殿下と、嬉しそうなリリス。  嫌よ嫌よも好きのうち。と言うから、このまま、恋に発展するのかな。 「はぁ、またセルベンス様にくっ付いて……でも、私には2人の邪魔なんて出来ないよ」  んん?  今度は誰?  この茂みの中、王子は私の右側にいるから。  反対側を見ると、私たちと同じ様にしゃがむ、長い白銀の髪とオレンジ色の瞳をした綺麗な女性がいた。  その女性は私が見ているのに気付き、バツが悪そうに笑った。 「……逢瀬中に、ごめんなさい。あの人達がどこかに行ったら、直ぐいなくなるからしばらくここにいさせて、お願い」  と、頼み込んできた。  ――あれ? あれれ? この白銀の髪の女性ってもしかして、私が女性に聞こうとしたとき。 「イーリス嬢?」 「え? イストリア殿下?」  私を挟んでお互いの名前を呼んだ。……イーリス嬢、やはりこの女性は悪役令嬢イーリス・アッシュだ。どうして悪役令嬢のあなたがここにいるの。  悪役令嬢のあなたは「あなた達はこんな所で、何をしているの?」と、セルベンス殿下とヒロインのリリスさんに、文句を言いにいくはずじゃないの。  ――私は、それを楽しみにしているのだけど。
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