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モブ子、盛大にやらかす!
う、嘘でしょう……やっちゃった。
肘は痛いし、膝も痛い。
今日は王都にある華やかな、エスロランテ学園の入学式。
沢山の新入生が行き交う学園のエントランス……ざわめく人々、足を止めて見つめる人達の視線は騎士に囲まれた私――男爵令嬢ナウル・ティアンと、彼に向けられていた。
ことの発端は数秒前。
「いっ、てて」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
瞳を開けると目の前に、イケメンが倒れている。
そう私が、このイケメンの男性を押し倒したのだ。
本来なら、ここエスロランテ学園は制服だが、本日開催の入学式では、正装での参加が義務付けられている。
今日の日のためにと、お父様とお母様から贈られた薄ピンクのドレスを着ていた。
……まあ、ここから先は言い訳になるのだけど。
私の家は、辺境地の近くに領地がある男爵家。
普段は畑仕事を手伝うからドレスではなく、作業着か、ワンピースを着ることが多い。
私は転生者で、モブ。長年待った乙女ゲームの世界だと浮かれてスキップを踏んだため、慣れないドレスのスカートの裾を踏み、倒れた先にイケメンの彼がいたというわけ。
「殿下! イストリア殿下」
彼を殿下と呼び駆け寄ってくる騎士数名。……ああ、私の人生が終わった。
だって、殿下とは。
この国の王子を押し倒したのだ、私は乙女ゲームの世界をウフフ、アハハっと見る前に。
……人生詰んだ。
「貴様、イストリア殿下を押し倒すとは!」
騎士がカチッと、剣を抜く音がした。
ごもっともな意見だけど。
私、これから、どうなっちゃうの?
「騒ぐな! 俺と、この女性を起こしてくれ」
「はっ、畏まりました」
騎士に起こされて身なりを整える王子は、少々病弱な色白だけど、サファイアの髪、金色の瞳のかなりのイケメン。
だけど「ん――」と、私は首を傾げた。
騎士に「イストリア殿下」と呼ばれた王子。
乙女ゲームに登場していた? こんなにイケメンの男性がいたのなら、必ず覚えてるはずなのだけど……私が忘れているだけなのかな。
(この乙女ゲーム、かなりやり込んだけどなぁ〜)
しばらくして、私達を見学していた生徒達もまばらにり。私はもう一度、イストリア王子に頭を下げた。
「誠に、すみませんでした……イストリア殿下」
「……殿下? いいよ。ところで派手に転んでいたけど、怪我はしていない? 君は……えっと名前は?」
「大丈夫です! 私は殿下に支えられたので、怪我はしておりません。な、名前を申しもせず失礼したしました。……イストリア殿下へ挨拶いたします。私はティアン男爵の娘ナウル・ティアンと言います」
慌てて名乗り、スカートを持って会釈した。
その姿を見て、イストリア王子は「元気だね」と笑い。
「ナウル・ディアンか……じゃな、ナル。これから俺の事はリアと呼べ、それで今日のことは許す。またなナル」
私をナルと呼んで、彼は騎士に「帰る」と伝えると、学園の外へといってしまった。
ナル⁉︎
リア?
(え、ええ? この乙女ゲームのモブの私が、王子を呼び捨てで呼ぶの?)
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