私と彼のはじまり

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 次に誘われたのは、それから一週間後、しかも、その日は休日だった。  また誘いたいというのが仕事の後だと思っていたから誘われた時は驚いたけど予定も無かったし、そもそも誘われた理由は『知人の結婚祝いに何を送るか悩んでいるので一緒に見繕って欲しい』というもの。  それに、この前見た笑顔に続いて新たな一面が見られるのではと密かに期待していた私は誘いを受けた。  約束の日は自宅まで迎えに来てくれて、少し離れた場所にある大型ショッピングモールへ出掛ける事に。  私服はこの前見た時同様ラフな格好だけど、やっぱり元が良いから何を着ていても格好良く見えるし、そこまで口数が多い訳じゃないけど、車内では普段よりも多く話をしていた印象だった。  お店に着いてからも前回の食事よりは明らかに気まずさも無くなっていたし、表情も少しだけ豊かに見えた。  自分の買い物ばかりでは無くて私の買い物にもきちんと付き合ってくれたし、疲れてはいないかとか、終始気を遣ってくれていたのも好印象。  そして極めつけはその日の帰り際の事。  結婚祝いの品にペアのグラスを選んだ至。  そこで見て可愛いなと思っていたグラスがあったのだけど、それを内緒で買ってくれていたようで別れ際に『今日一日付き合ってくれたお礼』と言って渡された。  内緒で買ってくれた事に驚いたのと同時に、私が良いなと思っていた事に気付いていたという点に、特に感動したのを覚えてる。  そしてこれも後に聞いた話だけど、そのグラスもペアになるよう色違いの物が売っていたのだけど、この時至は密かに自分用に色違いを購入していたようで、付き合ってから改めて自宅を訪れた際、食器棚に並んでいたのを見つけて微笑ましい気持ちになったのは言うまでもない。  ――とまあ、これがきっかけで私は更に至に興味を持つようになった事もあって、その後も仕事終わりに何度か食事を一緒にしたり、メッセージアプリで会話をしてみたりと、お互いの事を少しずつ知っていく回数が増えていったし、至の提案もあってプライベートでは上司と部下という関係を忘れて敬語で話すのを止めた事もあって、二歳しか年齢の差が無い私たちは気づけば『友達』に近い存在へと変わっていた。
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