私と彼のはじまり

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 私と彼の始まりは今から約二年前、私が総務部から営業部へ異動して来た事だった。  当時営業部は前課長や部長がとにかく営業に対して厳しく、彼らの理念に耐えられなくて辞める人が増えて、深刻な人手不足に陥っていた。  うちの会社は近年業績が上昇傾向にある【メルト】という大手に比べればまだまだだけど、それなりに名を広めつつある食品メーカー。  それ故上司が厳しいのも仕方が無いのだけど、あまりにも人が辞めてしまって困っていたさなか、元々は企画や製造に携わっていた至が仕事ぶりや知識の豊富さを買われて営業部の課長に大抜擢。  本人も経験を積みたいと異動した事から社内は大きな変化を遂げた。  至は仕事以外ではあまり話をしたりしないものの、仕事に対しては常に一生懸命で、知識は勿論、営業トークのスキルもある。  そして、彼が課長になってからというもの、営業部の社員たちは仕事がやり易いと意欲を示し、営業部は本来の姿を取り戻していった。  それとほぼ同時期、営業事務も人手が足りていないという事で、総務部は人が潤っていた事、同じ事務作業ならば他に行ってみるのも有りかと思い、上司の勧めもあって私も異動を決めた。  至から遅れる事、約半年、私も正式に営業部へ異動になり、営業事務として彼の元で新たに働き始めたのだ。  勿論、初めはあくまでも上司と部下――ただ、それだけだった。
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