私と彼のはじまり

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 あれはとある休日の事、その日は午前中から予定があって出掛けていて、その帰りに乗った電車で偶然、至の事を見つけた。  プライベートだし、あっちは気付いていない様子だったから声を掛ける事はしなかったのだけど、暫くして、どこか調子の悪そうな表情に気付いた。  そして、降りる駅に着いたらしい至の足元はフラフラとおぼつかない様子だった事が気になって同じ駅で降りてみると、彼がよろよろとホームのベンチへ歩いて行き、崩れるように座り込んだのを見て放っておけなかった私は声を掛けた。 「あの、楡木課長……どうかしましたか?」 「……キミは、松崎くん……どうして?」 「偶然同じ電車に乗り合わせて、課長が具合悪そうだったのを見て気になってしまって……」 「そうだったのか……悪い。少し、体調が悪くてな……まあ少し休めば治るから、気にしないでくれ」  そうは言うけど真っ青な顔をしているし、そんな状態の彼をこのまま一人にするのは気が引けた。 「あの、課長のご自宅は、この辺りですか?」 「ああ、徒歩で五分くらいのところにある」 「そうですか、あの……もしご迷惑でなければ、ご自宅まで付き添ってもいいでしょうか? 一人にするのは心配なので……」  けれど、自分から言ってはみたものの流石に迷惑かなと思いつつ、自宅まで付き添っても大丈夫かを尋ねてみると、 「……すまない、出来れば、頼みたい……」  やっぱりだいぶ辛かったのか、少し悩んだ末に付き添う事を了承してくれた。
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