ニクロムは挨拶をした。

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ニクロムは挨拶をした。

「うっわ、これは酷いわね……」  窓の外を見たアーニャが小さく悲鳴を上げた。どうしたんだろう、と僕は彼女の傍に近づいていく。 「どうしたの、アーニャ」 「ああ、ニクロム。あれ見てよ」  彼女は僕達パウリワン星人の特徴である三角形の立ち耳をぴくぴくと動かして僕に訴えた。紫色の雲が、少しずつ晴れてくる。宇宙船が惑星へと降下を始めたのだ。  どうやら彼女が見てほしいのは、この惑星の景色のようで。 「酷いものよ。どこも汚い泥でいっぱいじゃない。なんでこんな有様になっちゃったのかしら」 「あー……」  言いたいことはすぐにわかった。僕は呆れてため息をつく。 「仕方ないよ。だって、僕達が持ってるデータ、千年も前のものなんだから。その頃とは状況が違って然りじゃないか」  その惑星――通称“RX-55HTENO”は。千年前に撮られた写真とは、かけ離れたものになってしまっていた。  ドロドロの紫色の海が、どこまでも続いている。海、というより沼地に近い。水らしい水はほとんどなく、何が混じっているかもさっぱりわからない粘った泥がどこまでも地表を覆い隠している状態だ。  少し前まではこの惑星には海もあり、ちゃんとした陸地もあったはず。もちろん生き物だっていろいろいたはずだ。ところが、宇宙船の窓から見える景色は、どこもかしこも泥の海ばかり。動物も植物も、人工物の一つも見えない有様である。  これでは、着陸することもできやしない。 「やっぱ、千年前のデータじゃどうしようもねえんだって」  運転席から声をかけてきたのは、このチームのリーダーであるいドノンだ。彼はパウリワン星人の中では珍しい、黒毛のタレミミをしている。立ち耳の僕達より耳掃除が大変なんだ、と以前愚痴っていた。  それから、彼は僕達と比べてマズルが短いせいで、パウリワン星の夏には苦労しているという。できればもっと涼しい北極エリアに引っ越したい、と愚痴っていた。聖都マノン宇宙基地配属になってしまった以上、そういうわけにもいかないだろうが。 「俺ぁちゃんと上に言ったんだぜ?異星の調査はもっとこまめにしないと意味ねーって。千年もほったらかしにするとか、一体どういう了見だっつの。環境が変わるのもしょうがねえだろ」 「まあまあ」  僕はぷんぷんする彼を宥めるしかない。くるんとした茶色のシッポを振りながら、肉球から進化した手をひらひらしてみせる。 「しょうがないって。危険区域指定もされてたんだし。……さっさと調査終わらせようよ、リーダー。“RX-55HTENO”の調査結果は、みんな気になっていたところだろうしさ」
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