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“RX-55HTENO”という惑星は、自分達にとっても特別なものだと言っていい。
千年前、先祖が最後にこの星の情報収集を行った時、ここはまだ緑豊かな大地だった。美味しい木の実がたくさんあって、動物も魚も豊富にいて、何より高度な文明が栄えていたのである。
今の自分達ほどではないが、宇宙に出る技術も発展しつつあったはずだ。少なくとも自分達の惑星の衛星に着陸することができるくらいは。
ところが、先祖がこの惑星を飛び立った後、近隣の惑星から緊急警報が出されることになったのである。いわく、“RX-55HTENO”で何やらトラブルがあり、近づくのもままならない状態になってしまったのだと。具体的には、隣の惑星さえい影響を及ぼしかねないほどの強烈な放射能が検出されたということらしい。
強すぎる放射線は、自分達パウリワン星人にとっても脅威である。遠距離から除染を試みたものの、自分達の宇宙ドローンでは少しずつしか除染剤を散布することができない。おかげで、惑星に近づけるようになるまでひどく時間がかかってしまったのだ。
「あそこに、大きない岩場がある。あそこに着陸するぞ」
暫く泥の海の上を飛ばしていたドノンが、窓の外を指さして言った。確かに西の方に巨大な岩場らしきものが残っている。あそこならば、少々バランスは悪いが宇宙船を着陸させることもできるだろう。
ゆっくりと降下していく船。僕は窓の外を睨んで、ぽつりと呟いた。
「千年前の映像とは、えらい違いだ。……一体、何があったんだろうね、この惑星で」
「さあね。私達の先祖と違って、随分馬鹿な異星人が支配していたみたいだから」
僕の言葉に肩を竦めるアーニャ。
「正直、いい気味だわ。資料映像見たもの。私達の先祖、この惑星の奴らに奴隷にされていて、必死で宇宙に逃げ延びたって話でしょ。我々パウリワンの民を虐めるような下等種族なんか、滅んで当然だと思わない?」
相変わらず、彼女の言動はなかなか過激である。それだけ愛国精神が強いとも言えるのだろうが。
「まあ、何か報いを受けるようなことがあったのかもしれないね」
岩場は、やや平らな形状をしていた。灰色の平らな石には、白い線が二本と、真ん中に黄色い線が引かれている。まるで、人工的に作られた道でもあったかのように。
着陸すると同時に、ドノンが振り返った。
「お前ら、外に出るぞ。ちゃんと対放射能特別スーツを着て出るように。パウリワン星人は比較的放射能に強い体質だが、それでも長時間晒されたら命に係わるからな」
「わかってるって、リーダー」
僕は茶色の毛でおおわれた頭にヘルメットを被り、くるんとしたシッポだけが飛び出す形で銀色のスーツを着込んだ。
一方アーニャも、白くてくりくりとした毛でおおわれた体をスーツに押し込んでいる。ぴょこん、と小さく飛び出したタケノコのようなシッポがセクシーだった。
「ちょっと、どこ見てんのよ、えっち」
視線に気づいたのだろう。彼女が青い目を細めて睨んでくる。
「あんた、前歩きなさいよね。か弱いレディに先行かせる気?」
「べ、別に僕は、君にセクハラしようと思ってるわけじゃ」
「行 か せ る 気 ?」
「……先歩きます、ハイ」
彼女のぷりぷりのお尻とシッポを観察したい。こっそりそう思ったのがバレている。
僕はくるんとしたシッポをしょんぼりと下げて、宇宙船を真っ先に降りることにしたのだった。
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