File No.13 二人の刑事

1/1
前へ
/14ページ
次へ

File No.13 二人の刑事

 それから30分も経たないうちに、塩谷都市計画研究室は大勢の見慣れぬ人たちでごった返すこととなった。その頃になって、僕はようやく人心地が付いていた。さっきまでほとんどパニック状態だったんだ。  大学の警備員が僕の拙い説明でやってきたのを皮切りに、きびきびとした若いお巡りさん、青の繋ぎの制服に身を包んだ人たち、そして地味なスーツの一団が教授の私室とその手前にあるゼミ室を行き交っている。  大学の事務局員や学生たちは、廊下から中を覗こうと集まっていたが、土曜日のこの時間に、こんなにも人が残っていたのかと思うくらいだ。 「大変なことになったな」  僕と竜崎は第一発見者といういことで、ゼミ室のほうでぼんやりと立っていた。することもないけど、ここにいるように指示されたのだ。  誰かが話しかけてくるのを待っている。一応一通り、発見時の様子をお巡りさんには話していた。 「能代さん。はい……こんなことが実際起こるなんて思ってみませんでした」  声をかけてきたのは、大学の院生、能代さんだ。塩谷教授のゼミでは一番長くいる。来年の春には就職せず、このままここに残るのだろうと皆思っていた。 「で、美山君はなんでこんな時間にここに来たの? 君、もう教授の授業、取ってなかったよね」  唇が渇いたのかぺろりと舌で舐める。トレードマークの銀縁眼鏡がきらりと光った。 「それは……」 「藍。刑事が呼んでる。行くぞ」  どう答えていいのかわからなかった。本当のことを言えばいいとは思うけど、ややこしくなりそうだし。言い及んでいたのを見計らっていたかのように、竜崎が僕の肩をとんと叩いた。確かに教授の私室から手招きしている人がいる。 「あ、うん」  僕は能代さんに軽く会釈して隣室、つまり事件現場に足を運んだ。チッと小さく舌打ちが背後から聞こえる。と同時に、竜崎が首だけその方向へと動かした。  能代さんに疑われてもなんてことないけど、変な噂を立てられるのは心外だな。僕だけじゃなく、竜崎も一緒だからなおさら。 「神田署の風見です。君たちが第一発見者なんだよね」  風見と名乗る刑事は僕らにバッジを見せながら言った。隣には最初に説明したお巡りさんがいる。  風見刑事はこざっぱりしたグレーのスーツを着た中年男性だ。中肉中背で髪は五分刈り。眉間に皺を寄せ眼光鋭く僕らを見てる。寝不足なのか、顔色はあまり良くなかった。 「はい。そうです」  と、竜崎が応じた。 「こっちは同じく神田署の田代」  風見刑事の後ろに控えていた女性がバッジを見せる。女性刑事さんなんだ。風見さんよりずっと若い。ストレートの髪をひとまとめにし、リクルートみたいなパンツスーツ。化粧はほとんどしていないけれど、綺麗な人だと思った。 「警官に話したこと、悪いけどもう一度話してもらえるかな。恐らく、これから何度も聞かれるからそこは覚悟して」  怒っているのか睨んでいるのか、それとも疲れているだけなのか。感情の読み取りにくい表情と抑揚で風見刑事は僕らにそう告げる。  竜崎はふうっと一つ息を吐き、ついさっきお巡りさんに話したことを繰り返した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加