File No.2 星空

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File No.2 星空

 僕と竜崎は両方ともアパートの一人暮らし(竜崎は東京出身だが、両親は脱サラして北海道でラーメン屋を営んでいる)。  痩せっぽちの僕とは凸凹コンビだが、波長があったのか、それ以来なんとなく一緒にいるようになった。  なんて言ってるが、実を言うと僕は、初めて彼を認識してからずっと気になっていた。  ガタイもいいし、黒のウルフヘアはどこか強面の印象だったけど、その眼差しからは懐の深さに裏打ちされた優しさを感じた。話し方は常にフラットで落ち着いていて、低音の声質もあいまって彼の人柄の良さを彷彿とさせていたんだ。  そしてその印象は、全く間違ってなかった。あれから二年。彼のそばは居心地がいい。馬鹿な話もするし、自分とは違うなと思うこともある。  だけど、それも含めて全部受け入れられるんだ。竜崎がどう思ってるかわからないけれど、僕はこの日々がずっと続けばいいって思ってる。  とはいえ、僕らの関係は同じ学部のちょっと仲の良い同期生、それ以上でも以下でもない。キャンパスではほぼ毎日顔を合わせていたが、お互い勉強もバイトも忙しく、休日に揃って遊ぶようなことはあまりなかった。だから当然、二人で旅行するようなこともなく過ごしてた。  ところがなんと、昨秋の休みにキャンプに行くことになったんだ。他の同級生、竜崎の友達連中も一緒なんだけどね。  その学生たちとあまり親しいわけじゃないし、キャンプ用品など持っていない僕だったので、この時も実は迷った。 『道具とか心配しなくていい。寝袋も二つ持ってるし。嫌じゃなければ行こうぜ』  竜崎はそう言って熱心に誘ってくれた。キャンプそのものが嫌いなわけじゃないし、僕は勇気を出して行った。その判断は正しかったと思う。 『この時期のキャンプは暑くなくて俺は好きだよ』 『そうだね。星も綺麗』  テントの外、毛布にくるまって星空を見上げた。すぐそばには焚火がゆらゆらと輝いてて。なんともロマンティックな夜だったよ。そう思ってたのは僕だけかもしれないけれど。  この日のことを思い出してはニヤついていた僕だけど、だからといって、なにか変化があったわけではない。竜崎はキャンパスとバイト(ラーメン屋。両親の跡を継ぐつもりなのかは不明)とジムを巡る日々だし、僕もまあ御同様。  講義がかち合えば隣に座り、学食で昼ご飯を一緒に食べるぐらいの交流は変わらなかった。それでも僕はすごく満足してた。  大学生活は充実していたし、何をするにも自分で決められる自由はなにものにも代えがたい。たとえ奨学金返済の未来が待っていようと、今の生活費もカツカツだろうと、僕は幸せだった。
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