File No.6 同類

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File No.6 同類

 翌日、後期の成績表が閲覧可能になった。僕は恐る恐る自分の学籍番号とパスワードを入力する。 「良かった……」  全く信用していなかったけれど、教授は僕を落とすことはしなかった。だが、考えようによっては、落としてくれたほうが良かったのかも。勝つかどうかはわからないが、異議申し立てすることができる。そこで、昨日あったことを暴露すれば……。  ――――でも、証拠ないからな。  しかし僕は、これから教授の呼び出しに怯えなければならないのだ。なにも悪いことをしてないのに、罰を受けることに怯えないといけないなんて。やっぱり戦うべきだったのか。 「どうした? 藍。なんか元気ないな。まさかなにか単位落としたのか?」  4月の新年度がスタートしてすぐ、僕は竜崎とキャンパスで久々に顔を合わせた。3月の初めにバイト先のカフェに竜崎が来てくれて以来だから、ちょうどひと月くらいになる。もちろん、あの忌まわしい教授との件は今もまだ話していない。 「ああ、いや。大丈夫だよ。単位は全部取れた」  問題ありありだけれど……。 「そうか。じゃあなんだ。まさか誰かにフラれたとか?」  竜崎にしては珍しい冗談を言う。ちらりと顔を覗くと口元が緩んでいるのに、何故か目は笑っていない。 「そんなあるわけないことを……そういう相手いないの知ってるくせに」  と、苦笑しながら応じた。 「そっか。はは、いや、ならいいんだが……あ、そうじゃなくて。俺、そういう悩みだと助けてやれないからさ」  と、なおも訳のわからない言い訳をしだした。じゃあ、今の僕の悩みなら助けてもらえるだろうか。僕は隣を歩く背の高い竜崎を見上げる。  今日は黒のパーカーにデニムといったザ・大学生な感じだけど、脚が長いのもあって普通にカッコいい。 「どうした? 俺の顔になんかついてるか? 今朝はひげ剃ってきたんだけど」  竜崎は時々髭を伸ばしたりもする。髭ありの竜崎も嫌いじゃないけど、僕は剃ったツルツルの竜崎の方がいい。髭あるとワイルド過ぎるし、竜崎は肌も艶があって綺麗なんだ。 「ううん、なんでもない」  昨日までは、自分の部屋で悶々として携帯電話の電源を切ろうかとまで思い悩んでいたんだけれど、竜崎とこうして話してるだけで心が和む。  ――――やっぱり……僕は竜崎が好きなんだ。 『教授はゲイだから』  土屋さんに言われた時、僕はドキリとした。それは、教授がゲイだってことではなく。土屋さんの言い方だった。  教授がゲイなのは多分そうなのだろうと僕は思っていた。だって、同類なんだから。向こうも同じように僕の匂いを嗅ぎ付けたに違いない。だからこそ恐怖なんだよ。  土屋さんは、ゲイを揶揄することを隠しもしなかった。最近では随分世界は寛容になり多様性とかで持ち上げられてるけれど、正直それも胡散臭くて。土屋さんのように恥ずかしい性癖だと言わんばかりなのが一番普通に思える。  ――――そうは言っても、この感情が面白おかしく語られるのは悲しい。  僕の竜崎への気持ちは、もう2年にもなるのに言葉にするのは難しい。だから、ずっとこの心の中に閉まっておかなければって思ってるんだ。
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