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頑張ります。
「もっとゆっくりしていけば良いのに」
そう言う母には後ろ髪が引かれたが、英司は振り切って車に乗り込んだ。
「今度は3人で来るよ」と言い残して。
俺は今、別れ道に立たされているのかも知れない。そんな事をぼんやりと英司は考えていた。このまま、家族と関わらずにいたら、心がはぐれてしまい、取り返しがつかない程、離れていってしまうだろう、と。
もっと家族と関わるべきだろう。そこには痛みが伴うかもしれない。しかし、自分を含めた家族全員が幸せになれる道があるはずなのだ。
そこまで考えてもなお、時間が取れない、疲れがひどい、家族は聞く耳を持たない。そんな言い訳が英司の思考を染めていこうとした。
英司は頭を振り、それらを追い出し、強くハンドルを握った。
家に帰り着いた英司は玄関の前で逡巡していた。何て言えばいいんだろうな、と。上を向いてしばし考え込んでしまう。
言葉が見つからないまま、ドアを開けた。すると人肌の温度の声が優しく響く。
「おかえり」
英司は考える必要なんてまるで無かった事に気がつき、頬を緩める。居場所に帰ってきた時の大事な言葉。
英司は雅恵と康太の声が響き終わる前に自分の声を重ねた。
「ただいま」
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