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疲れております。
「パパ、起きてよ。これ!見てよ!凄いんだよ」
そんな高い声とともに眠っていた英司は体を大きく揺さぶられた。小学2年になる息子の康太が起こそうとしていたのだ。
英司はお盆休みを取るために連日、殺人的な残業を強いられていた。今日はお盆休みの初日。英司は心ゆくまで惰眠を貪っていたかった。しかし、康太はそれを許そうとしなかった。仕方なく英司は目を開けようとした。しかし、まるで強力な接着剤で貼り付けてあるかのように、まぶたは簡単には開いてくれなかった。英司は渾身の力を目に込めた。どうにか、うっすらと息子の姿が映った。
「どうした。康太」と英司はくぐもった声で返した。まだ頭も視線もぼんやりとしている。時計に目をやると8時だった。寝たのは4時だったから、まだ4時間しか眠っていない。英司は再び眠りにつきたいという誘惑を必死で抑え、上半身を起こした。
「どうした。康太」と英司は精一杯の声で繰り返した。しかし、さっきと変わらず、くぐもった覇気の無い声だ。
「これ!これ見てよ」と康太は携帯ゲーム機を英司に見せた。画面にはカラフルなモンスターが得意気な表情を浮かべており、寝起きで聞くにはいささか耳障りな音楽が聞こえてきた。康太は眠そうな英司にお構い無しで、このモンスターがいかに貴重なものであるかを話し始めた。
「そうか。良かったな、大事に育てるんだぞ」と英司は何とか返した。眠気は去ってしまったが、倦怠感はまだ身体にしっかりと根付いていた。
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