もう1回は魔法の言葉

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もう1回は魔法の言葉

でた。 息子にとっての魔法の言葉… 「あといっかいだけーー!!」 店内に響き渡る我が子の声。 良かった。 絶対こうなると思ったから人の少ない時間帯、朝早くから開いているお店を選んだのだ。 息子5歳。 やんちゃ坊主で暴れん坊で甘えん坊。 坊ちゃん三拍子もいい所。 わがままで言うことも聞かない。 約束も守れない。 本当に男の子をそのまま絵に書いたような我が子。 本当に…ほんっっっっとうに!手を焼く。 イライラするしきつい。 大変だし疲れる。 今この時も駄々をこねられているので朝早くから既に疲労が溜まっていく。 それでも何とか誤魔化そうと声を掛ける。 「これだけって言ったでしょ?」 「約束したよね?」 「あ!お菓子買うんだよね!アイスクリームも買っちゃうー?」 なんて大好きなガチャガチャを目の前にすれば私の代替案なんて塵となるだけ。 わかってるよ。 こうなったらてこでも動かないこと。 わかっちゃーいるんだけど… ここで世の母ちゃん達に是非ともお聞きしたい。 ここで甘やかすか、我慢させるか。 しかも既にやりたいと駄々こねてる息子の左手には、お店に行く前の私との約束をしっかり守り、息子の「1回だけ」に負けて回させたガチャガチャの景品が握られている。 そう。 もう既に「1回」終わっているのだ。 それでも…… 「これじゃなーい!これ嫌だ!もういっかい!!」 とギャン泣きの息子。 「ねえ…もう5歳のお兄ちゃんなんだよ?これ嫌かもしれないけどさ?おもちゃはゆう君がいいなーと思ってゆう君のところに来てくれたんだよ?おもちゃ泣いちゃうぞ?」 と、息子の目線に合わせてゆっくり話をするが聞く耳もたず。 どうすればいいのか難しいなと思う。 考えれば仕事仕事仕事、帰宅すれば家事家事家事。 そんな中でも時間さえあれば息子との時間を大切大切にしてきた。 だが、こいう多々ある場面でどうしても上手く意識をそらせたり、息子を納得させられる優しい言葉が出てこないのは、いくら息子との時間を大切にしていたとしても息子のことをわかっているようでわかっていなかった証拠。 もっとうまい言葉が出てくれればいいのだが… 私の悩みなんか露知らず、ひたすら駄々をこねまくる息子。 どうしても欲しいものがあるのだろう。 それが欲しいならおもちゃを買った方がましだったと思うこともしばしば。 甘やかしすぎた。 息子の言うことを聞きすぎた。 そう何度も何度も毎回毎回毎日毎日反省する日々。 「おねがいします。ぐすっ。あといっかいだけーひっうっぐすっ」 鼻水なのか涙なのか分からない液体が息子の顔面一杯に広がっている。 泣きすぎて何言ってるかわからん。 懇願している息子を目の前に私の気持ちが揺らぐ。 ずるい。 ずるいぞ息子よ。 そんな可愛く言われたら母ちゃん。許しそうになるじゃん。 それでももう少しグッと我慢。 思う存分泣いてくれれば諦めるかもしれない。 それか少しでも落ち着いてくれれば私の声も耳に入ってくるかもしれない。 駄々をこね、ギャーギャー言っているうちは何を言っても意味が無い。 逆に酷くなるだけだ。 しばらく様子を見ていると落ち着いたのか懇願作戦にうつったようだ。 泣きわめいて困らせて「もう1回」と言わせようと思っていたのかもしれないが、それで駄目なら可愛く懇願作戦。 「かわいい。かわいいけどだめ。1回だけって言ったよね?お菓子も買うんでしょ?お菓子のお金無くなっちゃうよ?」 そういうと、息子はしばらく黙り何やら考えているようだ。 物事を考えるだけの落ち着きを取り戻したようだ。 「それならおかしいらないからもういっかいだけ。ね?おねがーーい」 そうきたか。 1回200円 お菓子を買うより多少安い。 そんなことを思いながら「1回ママの顔を見ようか?とにかくまずは顔を拭くよ」 と言いながら息子をゆっくり立たせ、顔を赤ちゃん用濡れティッシュで拭いてあげる。 泣きすぎて顔が紅くなっている息子の目をしっかりと見た。 「1回だけっていうお約束だったよね?」 「うん」 私の目をしっかりとみて息子が受け答えができることを確認。 「でもこのおもちゃじゃなくて、他のが欲しかったんだ?」 「うん」 「お菓子を我慢できるの?」 「うん」 「本当にこれの分お菓子買えないからね?」 と、ガチャガチャを指さしながらゆっくりと息子に聞いてみる。 多分……よくわかっていないかもしれない。 それでもしっかりと現物を見せてこれがマルならこれはバツと教えていく。 私の言葉に頷く息子。 「おかしがまんする。だからもういっかい」 息子の口からはっきりと自分の意思を聞くことが出来た。 自分で判断し、決めたのなら… 「ほんっっっっとうにこれで最後だからね?」 「はい。おかしがまんして、これでさいご」 私の言葉を繰り返す息子に100円を2枚握らせる。 たった200円。 2回もすれば400円。 200円くらい。 そう思う人もいることだろう。 でも高いか安いかでは無い。 こういう場面で教えてあげられるこは沢山ある。 この小さい出来事の積み重ねで子供は学び、成長していくと思っているので全ての小さな出来事を大切にしている。 もちろん今この時も子育てって大変だなと思うし、辛いともきついとも思う。 思うがずっとは続かない。 いつか子供は手から離れてしまい、傍からも離れてしまう。 嫌でも離れていくのだ。 だから今だけ…今この時もしっかりと私の話を聞けるようになった息子の成長を噛み締め、笑みが自然とこぼれる。 まだ手のひらに収まる息子の頭を撫でながら… 「ふー。しかたないなー。んじゃーあともう一回だけね?」 嬉しそうに頷きながらもう1回のガチャガチャを回す息子。 もう1回だけ。 もう1回がもう1回になっていない言葉。 何度この言葉を使うのやら。 自然と笑いが出る。 私の今日は今始まったばかりだ。 息子との当たり前の今日を楽しく過ごそうと今からの予定を考える。
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