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「あっつ……」
僕──来瀬理一は河川敷の石畳に座ったまま、嫌味なほどに眩い光を放つ太陽に思わず視界を狭めた。
高校三年生の夏休みも終盤。僕はお盆のこの時期になるとよくこの川辺に来ていた。
理由は無性に彼女に会いたくなるからだ。
彼女、と言ったが恋人同士といったわけでもなく幼馴染という居心地の良い関係に胡坐をかいて、僕は今日の今日までその秘めた想いを伝えたことはない。
そして僕が彼女に想いを伝えることなく彼女は僕の手の届かない遠い場所へと行ってしまった。
「丸二年、か……」
彼女と会えなくなった年月を言葉に出せば後悔と寂しさが募る。
目の前の川辺は太陽の光を一身に浴びてキラキラと揺らめいていて、見つめていれば僕が心の片隅に仕舞っている彼女との思い出が勝手に蘇ってくる。
春はこの川辺の先に一本だけある桜の木の下で彼女のお手製のおにぎり片手に花見を楽しみ、秋は川のせせらぎの音を聞きながら二人で読書を楽しんだ。
冬は雪がちらつく中、川の表面に薄く張った氷をのぞき込みながら彼女が『川底に魚が見える』と無邪気に笑ってその笑顔に見惚れたことを思い出す。
そして──夏。夏は彼女が僕の前からいなくなってしまったことを嫌でも思い出す悲しい季節だ。
(ちょうど八月か……それに今日は……)
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