98人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は前方に陸橋が見えてきたところで土手を右手に下り、細い路地を二つ抜ける。すると青々とした樹々の繁る僕らの地元で唯一の神社が見えてくる。
(神様がこの夢見せてくれてるとしたら……ここの神様か?)
(起きたらお礼参り行かなきゃな……)
そんなことが一瞬脳裏を駆け巡ったが僕はすぐに打ち消した。
いまは全力で夏希との時間を過ごせばいい。
ふいに僕の肩に添えられている夏希の両手が僕に身体を預けるようにぐっと力が加えられると耳元から夏希の声が聞こえてきた。
「今年の神社のお祭りいった?」
夏希の高い声と吐息がくすぐったい。
「ううん、行ってない」
平然と答えながらも僕の心臓はあっという間に駆け足になって頬がカッと熱くなる。
(なんだこれ……顔あっつ……)
「理一、疲れた? 休む?」
「え? なんで?」
「顔まっか」
「暑いからだろっ」
僕は心の中で誰のせいだよ、と恨めしく思うが鈍感な夏希には僕の顔が赤い謎は幽霊になっても解けないだろう。
「ねぅ、さっきの質問だけど、なんで?」
「なんでって……」
「理一お祭り好きじゃん」
「まぁ、嫌いじゃないけど」
「だって私が生きていた時は毎年一緒に行ったじゃん」
神社のお祭りは僕らの夏の一大イベントだった。わたがしをたべながら射的をして、そのあと帰る前にヨーヨー釣りをしてから二人で並んで家までの道をヨーヨーを弾きながら帰るのがお決まりだった。
僕は神社の鳥居を見ながら左に曲がると、少し迷ったが夏希に心のまま返事をした。
「夏希がいないのに行ったってしょうがないだろ」
「…………」
夏祭りは夏希との思い出が一杯だ。中学生の時だった。帰り道、夏希の履いていた草履の鼻緒がきれて僕は汗だくになりながら家までおぶったこともあった。
あの時の夏希は珍しくしょんぼりして何度も『ごめんね』なんて言うもんだから、僕は泣かれたらどうしようと気が気じゃなかったことを思い出す。
(あれ……?)
あれこれ思い出に浸っていた僕ははっとする。すぐに返事が返って来るとおもった後ろの夏希はさっきから急に静かだ。
(もしかしてしょんほりしてる……?)
夏希なら「もう理一って寂しがり屋だな~」とか「私が居なきゃだめだね」みたいな返事が返って来ると思って、本音を口に出したのに思いもよらずに訪れた沈黙にきまずくなる。
最初のコメントを投稿しよう!