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「えっと……あの夏希……聞いてる?」
「……あ……ごめんね、風で聞き取りづらくて……よくわかんなかった」
(なんだ……)
こんな気まずい空気が流れるなら言わなきゃよかったと思っていたがどうやら僕の言葉は夏希には聞こえてなかったようだ。
「さっきの返事だけど。その……もうお祭りいってはしゃぐ年でもないかなって……」
二度目はなんだか気恥ずかしくて言えそうもなかった僕は照れ隠しでそう返事をする。
「……そうかもね」
そう言った夏希の声はいつも通りに聞こえたけれどどこか少しだけ寂しそうに思えた。
神社を通り過ぎて古民家の並ぶ裏道を抜ければ目当ての喫茶店のある商店街はもうすぐそこだ。
「……あ、ここのおばあちゃんの家、更地になったんだ」
「あ、うん」
「引っ越し?」
「ううん……病気でその去年……」
「……そっか」
夏希が言っている、おばあちゃんとは自宅の古民家の前でよく自家製の野菜を販売していた老婦人のことだ。小さい頃は神社で遊んだ帰り道、おばあちゃんは僕らに季節の野菜をおやつ代わりによく食べさせてくれた。
「おばあちゃんのきゅうり美味しかったなぁ」
「僕はトマトも好きだったな」
「うんうん、すっごく甘かったもんね」
「でもいちばんは──」
「あ、待って。せーので言お?」
「いいよ」
僕は脳裏にそれを思い浮かべると夏希の合図を待った。
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