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扉を開けてカランとドアの鈴の音を聞きながら中に入ればすぐにマスターが見えた。夏休み、しかもお盆の真っ只中だからなのもあるだろう。店内にお客さんは誰も居ない。
「理一くん、いらっしゃい。久しぶりだね」
白髪頭に丸いメガネをかけたマスターが読みかけの小説を裏返しながらこちらに向かってやってくる。僕は僕のあとから入ってきた夏希が隣に並ぶのをみながら口を開いた。
「ご無沙汰しております、えっと。今日は彼女と一緒に……」
「ん? 彼女?」
マスターは僕の隣にいる夏希の姿が見えていないのか、きょとんとしている。
「えぇっと……」
(もしかして……夏希って僕にしか見えてない?)
マスターにどう説明しようか悩んでいた僕に夏希が肘で痛くない程度に突いた。
「ね。私もよくは知らなかったんだけど……理一以外には見えないみたいだね」
「え、やっぱそうなんだ」
こんな小説や漫画みたいなことがおこるなんてやっぱり信じられない気持ちがまた湧き上がって来る。
「理一くん?」
(あ、やば……っ)
焦る僕を見ながら夏希がぷっと笑いつつも夏希は僕に話しかけてくる。
「ねぇ理一、とりあえずさ、マスター驚かせてもあれだし。あそこ、カウンターから一番遠いし久しぶりに座らない?」
「うん、そうしよっか」
そう返事をしてから、しまったと口を手のひらで押さえるがあとのまつりだ。
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