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「……さっきから大丈夫かい? 理一くん?」
こんなにすぐ近くで夏希とやり取りしているのにマスターには全く聞こえないらしく、マスターの眉間には皺が寄っている。
「あー、マスターすみません。ちょっと暑さでそのぼんやりっていうかそのー……休憩したら落ち着くと思うので」
「無理してないかい?」
「ほんとに大丈夫です。あそこの席いいですか?」
僕はマスターに向かってカウンターからは本棚を挟んだ一番奥の席を指さした。ちょうどその席はいつも僕と夏希がお気に入りで座っていた席だ。
「それは構わないけど……」
マスターの返事を聞くとすぐに夏希が「わぁい」とその席へ向かって駆けていく。
「ちょっと待って……っ」
「こら理一、シーッ!」
(あっ……)
夏希はこちらを振り返りながら人差し指を自身の唇に添える。
(あー、これは絶対慣れないな……)
僕は度重なる失態に自身の前髪をくしゃっと握った。
(声出さずに夏希と意思疎通とかできないし……声出すしかないじゃん……)
僕がはっと顔をあげればマスターがポケットからスマホを取りだしている。
「……お盆でもやってる病院探そうか?」
「いや、全然っ大丈夫です。それよりマスター、僕めちゃくちゃ喉乾いてるんでクリームソーダ二つください」
「えっ、二つ?!」
マスターが驚くのも構わず僕は大きく頷いた。
「いいのかい? 理一くんはいつも夏はアイスティーのイメージだけど」
「はい、今日はクリームソーダがすっごく飲みたい気分なんでお願いします」
僕はそう言ってようやくマスターに注文を終えると、こちらに向かって手招きしている夏希の元へと向かった。
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