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「はい、おまちどうさま」
目の前に置かれたクリームソーダに夏希がぱっと目を輝かせる。
「今日は特別、クリーム多めにサクランボもふたつね」
「ありがとう~マスタ~」
「ありがとうございます」
マスターは僕に向かって「じゃあごゆっくり」と告げるとカウンターへと戻っていく。
僕は目の前に置かれたふたつのクリームソーダのうちの一つを夏希の前に移動させた。
「すっごくおいしそ~、飲んでいい?」
「勿論……てか今更だけどさ。夏希って飲食できんの?」
僕の言葉に夏希が「あっ」と声を出した。
「確かにー、私って飲めるのかな? 喉は乾いてるんだけど」
「いや僕に聞かれても……幽霊の飲食事情って全く想像つかないんだけどさ……」
「あはは。だよね~、女は度胸! よし、飲んでみちゃお」
夏希はそう言うと桜色の唇でストローをそっと口に含む。そして小さな口をすぼめた。
すると、夏希のクリームソーダのかさが少しづつ減っていく。
(!!)
「おいし~!! 理一っ! 見た?!」
「見た……すごっ!」
無意識に出てしまった僕の驚きの声に、本棚の向こうからマスターの声が聞こえてくる。
「理一くん、どうかした?」
「あっ、すみません! 美味しすぎただけです!」
目の前の夏希が腹をかかえて笑っている。
(誰のせいだよ……)
「それは良かった。なにかあったら言ってね」
「はい!」
(気をつけて小声にしなきゃ……)
僕がふうっと一息つくのをみながら夏希がにんまりしている。
「もう夏希のせいだからな」
「ごめんごめん。だってまさかクリームソーダ飲めるなんてびっくりでしょ?! 幽霊って飲食できるって証明しちゃった」
「……いまふと思ったんだけど、これ傍からみたら、勝手にクリームソーダが消えてるってこと?」
「あはは、そうだね~、すごい! 怪奇現象じゃん」
「それ自分で言う?」
確かに怪奇現象かもしれないが、それよりも一人でブツブツと小声で話しながらクリームソーダを二つも頼んでいる僕の方が怪奇かもしれないなとも思う。
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