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僕ははじめて頼んだクリームソーダをようやく嬉しそうにしている夏希を見ながら口に含む。
シュワっとしたメロンソーダの炭酸が舌先と喉をピリッとさせるが、じんわりやってくる独特の甘さがクセになりそうだ。
「どう、はじめてのクリームソーダは?」
夏希がおどけたように右の拳をマイクに見立てて僕の方に突き出してくる。
「う~ん。なんか夏希みたい」
「私?」
「そう。いつも振り回されてばっかだけど何か新鮮で刺激的でさ。でも時折、上手く言えないけど気遣ってくれたりとか……僕のこといつだって応援してくれたりさ……」
夏希のふと見せる優しさはクリームソーダのクリームみたいに甘い。
ってそんな恥ずかしいこと言えるはずはなく僕は言葉尻を濁した。
「当たり前じゃん。どれだけ一緒にいると思ってんの」
「まあね」
その時、夏希がふいに窓の外に視線を向けた。
「あ……」
「ん?」
見れば小さな女の子が兄と思われる小学校高学年くらいの男の子におんぶされながら仲良さげに商店街を歩いていくのが見えた。
「……中二の夏祭りの帰り道おぶってもらったことあったよね」
「ああ、うん。今だから言えるけど僕人生で一番必死だったかも」
「あはは、重かった?」
「そうじゃなくて。夏希があんまり謝るから泣き出すんじゃないかって」
あの時、内心気になっていたことを口に出すと、夏希が困ったように肩をすくめた。
「……確かにちょっと泣きそうだったかも。というか泣いてた。理一に迷惑かけすぎて」
「なんだよそれ。あの日も思ってなかったし今までだって全然迷惑なんて思ったことないし……なんなら僕の夏の思い出ナンバースリーに入るし」
「ぷっ。なにそれっ、理一の夏の思い出の一つが私をおぶったことなの?!」
「そうそう」
僕らはクリームソーダを吸いながら顔を見合わせて笑う。
勿論、僕は声を抑えて。
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