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それから僕が夏希とずっとこうしていたくて、ゆっくりクリームソーダを飲んでいるのに対して、夏希はあっという間にクリームソーダを飲み干しサクランボを食べ終わると、テーブルに肘を突いて僕をじっと見つめた。
「ねぇ、理一」
「ん?」
「小説書くのやめたの?」
「なっ……」
夏希はいつだって唐突だ。こうして急に質問されてなんて答えようか思案したことなんて数え上げたらキリがない。
「その顔そうなんだ。ねえ、どうして?」
「…………」
僕はすぐに答えることができずに下唇を湿らせた。
できれば聞かれたくなかった。でも夏希なら聞いてくるだろうなとは予想はできた質問だ。
けれどいくら予想していても実際にこうして向かい合った状態でそれも夏希の真剣で綺麗な瞳で問われれば、僕はただ口を噤むしかなかった。
「理一の夢だったでしょ」
「それは……」
僕が小説を書くのをやめた理由は一つだけ。
それは──夏希がいないから。
ただそれだけ。
僕は小説は書いていたがどこかのサイトに掲載することはしていなかった。だって僕にとって読んでほしいのも感想を聞きたいのも夏希だけで十分だったから。
夏希のいない世界で僕が小説を書くのなんてなんの意味もない。そう思った僕は小説を書くことも小説家になりたい夢も手放してしまった。
「理一?」
「うん……」
かと言って、これらの言葉を口にすればまるで自分の身勝手な弱さを夏希のせいにするみたいで僕は何も言えない。
このままどうにかやり過ごせないかなと思うが夏希は僕から視線を外さない。
「……家の……手伝いしようかなって」
絞り出すようにして答えた僕の言葉に夏希が片眉を上げた。
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