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本当ならここには来たくないのかもしれない。
でも彼女に会えるとしたらまたここのような気がして僕は暇さえあればここに来ていた。
でも心はいつも迷っている。来たいような来たくないような。思い出したいような思い出したくないような。もともと優柔不断な気質のある僕だからだろう。両極端な気持ちは二年経ってもなにも変わらない。
「はぁ。ほんと優柔不断も嫌になるよな。進路もまだ決まんないしな」
高校三年の夏が終われば嫌でも将来への選択を迫られる。
だけど僕には夢がない。
いや小説家になりたいという夢があったが、書くことをやめた僕には夢がなくなってしまったと言った方が正しい。
地元で小さな不動産を営んでいる両親からは地元の大学の経済学部を勧められているが、僕は家業を継ぐ意思があるわけでも別のなにか進みたい道があるわけでもない。
(ほんと宙ぶらりんだな)
小説家を目指していたことを唯一知っている彼女なら迷わず文学部を勧めてくれるんだろう。
そして同じく本好きで図書館司書を目指していた彼女がいたなら、彼女の行く大学の文学部に一緒に入学して平凡ながらもささやかな楽しいキャンパスライフが待っていたのかもしれない。
「ほんと僕ってどうしようもないな……」
彼女がいなければ上手に笑うこともできなくて。あんなに頑張ろうと前向きだった夢も見失って。
こんな僕を見たらきっと彼女は盛大に僕のことをいつものようにしかりつけるのだろう。
──もうっ、理一しっかり! 諦めないで!
「……とっくに諦めちゃってごめん。こんなどうしようもない僕になってごめん」
ぽつりと溢した言葉に誰も答えるはずがなく、聞こえてくるのは目の前の川の中から魚がピションと跳ねる音だけ。
(あーあ。声が聞きたい)
僕は額の汗を手のひらで拭うと光に反射してキラキラと煌めく水面に視線を移した。
今となっては悲しい記憶が一番に蘇る夏の季節も小さい頃は彼女との楽しい思い出が一番あったことも確かだ。
「よくこの川で遊んだよな」
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