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「僕のせいだよ……あの日、僕が……夏希と一緒に帰ってれば……夏希は……」
僕はあの頃、夏希の勧めもあり初めてコンテストに挑戦しようと暇さえあれば図書館に入り浸っていた。僕が小説なんか書いてなかったら。コンテストに出してみようだなんて柄にもないことしようとしなければ。
そして雨具を持っていたら。
後悔はいつだってあとから遅れてやってくる。
どうせ過去は変えられないのに。
そして、たらればなんて意味がないと思いながらも、そう思わずにはいられない。
僕はずっと僕自身がゆるせなかった。
何よりも大切な夏希を守ってあげられなかった僕を。
「……理一……私はね、もし一緒に帰ってても運命は変わらなかったと思う」
「なんで……そんなことわかんないじゃんっ」
怒りを含んだような言い方をした僕に向かって夏希が眉を下げた。
「わかるの。いまこうして幽霊になってみて……うまく言えないけどわかるの。私は誰かを助けて命を落とす運命だったんだって」
「でも……っ、僕は」
「理一も誰も悪くない」
夏希は力強くそう言うと涙に濡れた目で僕に微笑んだ。
「それに私、誰かの命を救えたこと後悔してない。死んじゃったのは予想外だったけど……死んだ後も役に立てたしね」
「…………」
僕の心の中に黒いモヤがあっという間に増殖していく。顔も知らない誰かなんてどうでもいい。夏希さえ生きて笑ってくれていたらそれだけで良かった。
こんな醜い僕のことを知ったら夏希は僕を軽蔑するんだろうか。
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