95人が本棚に入れています
本棚に追加
彼女と二人で洋服が水浸しになるもの構わず夢中で小魚を追いかけたり、そこらに咲いている草花を船に見立てて競争させたり。
未だに鮮明に思い出すのは川の水、独特の凛とした冷たさとふくらはぎをくすぐる藻の感覚、そして彼女の向日葵のような笑顔。
(会いたい)
(どうしても)
(今すぐにでも)
あの川に飛び込こんで何も考えずに漂って揺れて、ただ彼女との思い出の中だけで生きれたらどれほど呼吸がしやすいだろうか。
いや、もうただ生きるという漠然とした日々の繰り返しに嫌気がさしている。いっそ飛び込んだなら川の流れに逆らうことなくそのまま沈んで瞳を閉じてこの世から消えてしまいたい。
彼女会いたさからそんな厄介な負の感情が生まれて僕は首を振った。そんなこと彼女はちっとも望んでいないから。彼女が悲しむとわかっていることだけはどうしてもしたくなかった。
「はぁあ。それにしても人間って何度になったら溶けんだよ……」
今年の夏は特に暑い。例年、この時期になるとテレビで地球温暖化についての話題が上るが、本当にこのままじゃいつか人類は地下シェルター暮らしになるのではと僕は真剣に思っている。
(別にそれでいい)
(なんでもいい)
(どうでもいい)
いつからだろうか。こんな風に未来に希望をもたなくなったのは。自分自身が未来に向かって何かを手に入れるために挑戦しようとすることを諦めたのは。
きっとそれは──夏希がいないから。
最初のコメントを投稿しよう!