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驚いた僕を見ながら夏希が肩をすくめた。
「あ。理一、もうあんまり時間ないや」
「夏希?! どういうこと……?!」
僕の心臓は途端にどくどくと嫌な音を立てていく。
「そんな顔しないで。言ったでしょ私は幽霊で、私がここに留まっていられるのも……限りがあるって……それにここに来た目的はほとんど全部果たしちゃったし」
「目的?」
「そう。私がこに来た目的はもう一回理一に会いたかったの。会って……たわいないことで笑ったり美味しいもの食べたりもう一度理一と日常を過ごしたかった……あとね。なにも言えずに旅立ったこと謝りたかったの」
「そんなこと……っ」
「ごめんね理一。黙って急にいなくなったりして」
「ううん……っ、そんなのいいから。お願いだからこれからも僕のそばにいてよ……」
「それは難しいよ……幽霊は天国に帰らなきゃ」
夏希は困ったように小さな声でそう言うと僕の両頬に手のひらを添えた。冷たさに僕の身体が僅かにビクッと震えた。
「ごめん、冷たかったね」
いつものように大きな目を細めて見せる夏希の顔がぼやけている。
夏希は大きく深呼吸すると僕を真剣な目で見つめた。何か覚悟を決めるように。
「理一……私ね……」
「待って。僕に言わせて」
「え?」
「ずっと……後悔してた……いつもそばにいるから……夏希がいてくれるのが当たり前だったからいつでも言えるなんて思って、臆病な自分を誤魔化してた」
僕は夏希の頬にそっと手を伸ばした。透き通ってしまうからその頬の輪郭ギリギリにそっと手を伸ばす。
「……理一、あったかい」
夏希の目から涙がこぼれて絨毯に丸いシミになる。
神様はやっぱり意地悪だから嫌いだ。こんな風に僕と夏希をまた会わせたくせに結局ずっと一緒には居させてくれない。
だから言わなきゃいけない。もう後悔しないように。『いま』は今しかないから。夏希にちゃんと自分の想いを自分の言葉でありのままに伝えたい。
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