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「好きだよ。夏希がずっと好きだった」
ちゃんと泣かずに言いたかったのにきっと僕の顔は情けないほどに涙でぐちゃぐちゃだ。
「私も……っ、ずっと理一が大好きだった……」
もう夏希の全身はほとんど透き通ってしまって目をこらすのに必死になってくる。
「ねぇ、理一。約束してよ。もしまた会えたらきっとまた恋をするって」
「そんなの……当たり前じゃん……っ」
僕は頬に触れている冷たさがなくなっていくのを感じて気が触れそうになる。
「お願い……夏希……もうちょっとだけでいいから」
分かっているのに、そう言葉にせずにはいられない。やっと会えたのに。もう別れるなんて嫌だと子供みたいに泣いて駄々をこねたくなってくる。
夏希はそんな僕を見ながら小さく首を振った。
「もう時間切れかな。っていうか私の心残りの全部なくなったから。これからは……寄りそって生きていくの」
「寄り添う? それは、僕に?」
「それはどうでしょう?」
夏希は消えそうになっても、なおいつものようにおどけてみせる。
「頼むって……」
「大丈夫。信じてるよ、理一」
夏希の声が少しずつ遠くなっていく。もう抱きしめることすら叶わない。
「……約束する……っ、もしまた会えたら夏希と恋するって」
「うん、約束ね」
背の低い夏希が背伸びをして僕は少しだけ屈む。
そして僕の唇に雪の粒のように小さな冷たさを残して彼女は消えた。
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