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※※
迎えた新学期──僕は騒がしい教室に入るとクラスメイトたちに挨拶をしながら窓際の一番後ろの席に座る。
そしてすぐに鞄から夏希に結局返せなかった小説を取り出し開くと窓の外を眺めた。
(いい天気だな……)
遠くにみえる川辺に目を凝らせば、なんだかまた夏希の声が聞こえてきそうだ。
あの日、夏希が消えてからまだ僕の前には一度も現れていない。
でもなぜだかわからなけれど僕にはまた夏希に会える気がして仕方なかった。なぜかと問われても答えられないけれど、そんな気がする。
そして僕はまた小説を書き始めた。夏希に途中まで読んでもらっていた幽霊のヒロインが主人公の期限付きの恋を題材にした青春恋愛小説だ。
(改稿した箇所……いつマスターにみてもらおうかな)
あれから僕はたびたびあの喫茶店に入り浸っては自作の小説をマスターに添削してもらっているのだ。
(年末のコンテストに出せたらいいな)
そんなことを考えながら僕は視線を小説に戻した。
その時──ガラリと教室の扉が開かれる音がして僕が顔を上げると担任教師が入って来る。
すぐに僕含めクラスメイトたちの視線は担任の後ろに向けられた。
(この時期に、転校生?)
肩までの黒髪に大きな瞳が印象的な凛とした雰囲気の女の子が立っている。
「みんなおはよう。早速だけど、今日からこのクラスに新しい仲間が増えることになりました。挨拶いいかな?」
女の子は担任に向かって軽く会釈をすると真っすぐに前を見つめた。
「家庭の事情で夏休みにこの街に越してきました、青山真由です。どうぞ宜しくお願いします」
青山真由と名乗ったその子が丁寧にお辞儀をして、クラスからは歓迎の拍手が起こった。
「えーっと、青山さんの席は来瀬の隣で」
(え、僕の隣……ってそりゃそうか)
ちょうど僕の隣の席は夏休みに親の転勤で引っ越したクラスメイトの席でいまは空席になっていたのだ。
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