キミとまた恋をはじめよう

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「夏希だったら……今の僕に何て言ってくれんのかな」 彼女の名前を口にだすのも二年ぶりだ。今日くらいいいかもしれない。 僕はジーンズのポケットからいつも持ち歩いている本を取りだした。もうこの二年ずっと肌身離さず持ち歩いている本だ。 背景は淡いブルーを基調としていて高校生の女の子が泣き笑いしている表紙で、恋愛青春ジャンルに分類される小説だ。ペラペラと捲っていけばどのシーンも夏希とのたわいない会話がよみがえって来る。 「これ……いつ返すんだよ」 もう返す日なんてやってこない。 そうわかっているのについそう言葉に吐いてしまった。 この本は小説家を目指していた僕に本好き夏希が貸してくれた、夏希のお気に入りの本だった。 女子高生のヒロインが医師から余命僅かだと知らされるのだが、そのことを幼馴染であるヒーローに知らせることなく彼女は親の仕事で遠い町に引っ越すのだと嘘をついてこの世を去るという悲恋の物語だ。  物語のラストは彼女が生前描いた絵画がコンテストで賞を受賞する。そのことを偶然知ったヒーローは授賞式をこっそり見に行き、代理で授賞式に出席したヒロインの母から彼女が亡くなっていることを聞かされ、絶望しつつも彼女の分まで強く生きることを決意する感動的なラストとなっている。また最後の一ページはヒーローが生まれ変わっても彼女と恋をしようと前を向く場面で締めくくられている。 「そんなん、小説だからだろ……」
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