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「夏希……っ、ちょっとだけ……透き通ってる?」
「まあね。こっちにいられる期限あるし、あんま時間ないの」
「期限?!」
「うん、少し前に天国からこっちにきたんだけど実家寄った後に理一の部屋に行ったら理一いないから、探してたら結構時間使っちゃった」
「えっ?! いまなんて言ったの?! 天国から実家に……僕の部屋って?!」
僕はサラッと発せられた夏希の言葉に突っ込みどころが多すぎて戸惑ったが、夏希はそんな僕を見ながら二年前となんら変わらない姿と声で大きな口を開けて笑っている。
「まぁ、ようは幽霊って忙しいのよ」
「き、聞いたことないんだけど……」
「ねぇ、理一。私喉乾いちゃった~クリームソーダ飲みたい」
「え?」
夏希がそう唐突に提案を口にして僕は思わず眉間に皺を寄せそうになるが、それよりもこの突然な提案の仕方やクリームソーダを飲みたいというあたりが本当に夏希なんだなと理解せずにはいられない。
クリームソーダは夏希の大好きな飲み物で季節問わずよく馴染みの喫茶店で注文していたのだ。
「えっと、クリームソーダってマスターのとこの?」
「あったり前じゃん! よく放課後行ったよねー、ってことで行こっ」
夏希はそう言って立ち上がると、僕が乗ってきた自転車を指さした。
「ちょっと待って……幽霊って……自転車のうしろ乗れる、の? す、透き通ってるけど」
僕は何を言ってるんだろうか?人生でこんなことを誰かに訊ねるなんて僕くらいかもしれないなんて思ったが、今はそんなことどうでもいい。
「乗れるに決まってるじゃん、幽霊って無敵なのよ」
「あ、……うん」
僕の言葉に夏希がすぐに返事をする。この感じがすごく懐かしくて愛おしい。
(夏希、なんだ……)
今、僕の目の前には間違いなく夏希がいる。ずっとずっと会いたかった夏希が──。
「理一っ、早く早く~」
「おい、待てよ」
僕は夏希が自転車に向かって駆けていくのを見ながら小説をポケットに押し込み、急いで夏希を追いかけた。
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