ふたり

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 ユウの背中を見送った後、ソラはとりあえずテレビ視聴に戻った。本当は、生きていくためには、この部屋を漁って、空き巣まがいのことをして、出ていったほうが確実なのは分かっていた。だって、いつまでここに置いておいてもらえるか、保証はない。だったら、あの無防備なひとならどこかに置いておいている気がする現金を探したほうがましだ。  分かっているのに、身体が動かなかった。たった一晩で平和慣れしたとも思えないから、もしかしたらソラは、信じたかったのかもしれない。会ったばかりの、あのひとを。ユウは、ソラになにも訊かなかった。訊いてきたのは名前だけ、それだけ。それ以外は必要ないみたいに。それを信頼と取ることも、できるといえば、できる。  ソラは、一人でテレビを見続けた。かなり集中して、目の前で展開される、自分には無関係でしかない情報を、それでも摂取し続けた。他のことを、考えずに済むように。  夜が更けても、ユウはなかなか帰ってこない。今頃どこで身体を売っているのだろう。危ない目に、あっていなければいいけれど。客にまであの無防備さを見せているのだとしたら、かなり危ない気がする。付け込みやすすぎるのだ。  窓の外に目をやり、そんなことをぼんやり思ったもの一瞬、ソラはじっとテレビ画面を眺めなおす。コマーシャルですら、ソラにとっては情報の塊に見える。ふと、本も読んでみたいな、と思った。ユウは、本も勝手に読んでいいと言った。ただ、ソラは学校に通ったことがないので、字があまり読めない。母親のぼろぼろの女性誌が家には何冊か転がっていて、それを自分で解読しようとして、なんとか平仮名と片仮名くらいは読めるようになった。それが全てだ。だから、テレビより効率的に、本から情報を摂取できるとは思えなかった。  「……贅沢になったな。」  本が読みたい、だなんて。字が読めるようになれば、だなんて。昨日までは、飯が食いたい、それかいっそ死にたい、としか思っていなかったのに、たった一夜で贅沢になったものだ。そんな自分に呆れていると、じわじわと窓の外の空が明るみを帯びてきた。  ユウが、そろそろ帰ってくる。  ソラはテレビから目を外し、玄関のドアの方を見た。それは、飼い犬が飼い主を玄関で待つみたいに、じっと。テレビは消さなかったけれど、光も音も、もうソラの視聴覚を刺激したりはしなかった。
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