ふたり

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 朝の光がリビングいっぱいに射してくる頃、ソラとユウは寝室に引っ込んだ。遮光カーテンの引かれた寝室は真っ暗で、さながら夜の続きだ。ソラは、そのことになんとなく安堵した。母親と暮らしていた頃、夜は明らかに畏怖と嫌悪の対象だったのに。  「ソラは、朝起きて夜寝た方が良いと思うんだよね。」  電気をつけて、白いシャツを脱ぎ、寝間着代わりのスウェットに着替えながら、ユウが言った。その、いかにも売り物として整えられえた、均整がとれたうつくしい身体から、ソラは視線を逃がした。直視するのが、怖いような気がしたのだ。  「……ユウさんと、一緒でいいんです。」  「でも、身体に悪いよ、この生活は。」  なにか自覚症状があるのだろう、上半身裸のまま、軽く肩など回しながらユウが言う。ソラは、早く服を着てくれ、と思いながら、首を横に振った。  「いいんです。」  本当は、一緒でいい、のではなく、一緒がいい、のだけれど、そんなことを言い出したら、気持ち悪がられるのではないかという気がして、それ以上なにも言えなかった。ユウはスウェットを頭から被りながら、そう? と軽く語尾を上げた。  「……はい。」  「じゃあ、一回様子見だね、しばらく昼夜逆転してたら、多分体調悪くなるから、そしたら生活戻ればいいよ。」  「……はい。」  生まれてから今日に至るまで、ソラの生活リズムはめちゃくちゃだった。夜寝ていても、母親が帰ってきたら外に出て徘徊しているしかなかったし、昼に仮眠をとっていても、母の絶叫や金切声に目を覚ませられ、逃げ出したりもした。そうやって切れ切れに、眠ったり起きたりしていたので、日にちの感覚がろくになかったくらいだ。だから、昼夜逆転だとしても、体調はおそらく悪くはならない。これまでよりは、ましになるはずだ。ただ、ユウにその理屈を話す気にはどうしてもなれなくて、ソラは黙ったまま、借り物のTシャツに着替えて布団にもぐりこんだ。  「明日は少し早く起きて、買い物に行こう。」  こちらもベッドに入ったユウが、ごく当たり前のことを確認するような口調で言う。ソラは、頷くことさえできずに身を固くしていた。明日の約束なんて、これまで与えられたこともないから、信じることなんて到底できなくて。  そんなソラを、眠っていると理解したのだろう。ユウはそれだけ言って口をつぐみ、しばらくすると、安らかな寝息を立てだした。ソラは、しばらく眠れずにユウの台詞を反芻していたけれど、やがて眠気に全身を覆われ、意識を手放した。
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