ふたり

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 翌日、本当に一時間ほど早めに起き出したユウは、朝食もそこそこに、ソラを連れて買い物に繰り出した。  「まずは、漢字練習帳だね。」  夏の眩い日差しの下で、暑いな、とユウは眉を寄せた。  「本屋に売ってるのかな。」  多分……、と、ソラは首を傾げる。これまで本屋という場所に入ったことがなかったし、漢字練習帳というものを手にしたこともなかったから、全然分からなかった。  ユウが足を向けた駅前商店街の本屋は、狭くて埃くさくて、それでも家族連れが児童書売り場には何組かいた。ソラは、その光景を見てしまうと、足が止まった。自分がいていい場所ではないと思ったのだ。なんというか、嬉々として本棚に手を伸ばす子供たちと、それを見守る母親ないし父親の組合わせは、ソラの目には神々しすぎた。  「ソラ?」  振り返ったユウが不思議そうに首を傾げ、児童書コーナーの一角にソラをいざなった。そこには、算数だの漢字だのローマ字だのの練習帳が何種類もずらりと並んでいた。ソラはそれを見て、なんだか悲しくなってしまった。この世には、こんなに勉強しないといけないことがあって、普通の子供たちは学校に行ったり、親から教えてもらったりして、それらを当たり前に習得していく。でも、ソラはなにも知らない。今も知らないし、これから先も、ずっと知らないのだ。  「……いいんです。」  「え?」  「俺、やっぱり、いい。」  なにをいまさらどんなふうに勉強しても、どうしたって今更、健全な同年代には追いつけない。ソラの身長が伸びないのと一緒だ。だからソラは、ユウの服の裾を引っ張って、売り場から離れようとした。  「本、読みたいんじゃないの?」  「……もう、いい。」  「なんで?」  「なんでも。」  それ以上、ユウは言いつのらないだろうと思った。これまで見てきた姿からして、ユウはあまり物事に執着しない感じがして。それなのに、この時ユウは、引き下がらなかった。  「買おう。漢字練習帳と、子供用の辞典だけでも。」  そう言って、本棚から小学校低学年向けであろうイラストのついた漢字練習帳と、黄色い表紙の辞典を抜き取る。  いらない、と、ソラは首を振って抵抗した。これ以上、惨めになりたくなかった。目をそらしておけば、自分の欠陥を、一時的にであれなかったことにしておくことはできる。  数秒の沈黙の後、ユウがソラの頭に手を置いた。  「いいから。」  彼の物言いは、やさしかった。ソラがこれまで聞いたことのある、どんなひとのどんな言葉より、やさしかった。
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