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本屋を出た二人は、そのまま隣の衣料品店に入った。ソラはまた、いらない、と言った。
「ユウさんの部屋着、貸してもらえれば。」
ラックにかけられた子供服を、真面目な顔で検分していたユウは、首を横に振った。
「中ではね。外出れないじゃん。」
「外?」
「買い物とか、図書館とか、なんか遊びにとか。」
ソラは、歌うようなユウの言葉を聞いて眩暈すら覚えた。このひとの、圧倒的な無防備さに。だってソラはまだ未成年で、その辺をうろうろしていて誰かに通報でもされたら、ユウは逮捕される。あの母親が捜索願なんてものを出すとは思わないけれど、ユウはその辺の事情についてもなにも訊いてはこなかった。
「……逮捕されたら、どうするんですか。」
ユウの背中を、泣きたいような気分で見つめながら訊くと、ユウは平気な口調で答えた。
「服役するね。」
なんで……、と、ソラの口から単純な疑問が漏れた。なんで、そこまでしてくれるのか。でも、ユウはソラの疑問には答えずに、ラックから数枚のTシャツや半ズボンを引っ張り出した。
「こんなんでいい?」
ソラには、服の好みという概念がそもそも身についていなかったから、服のデザインについては、言うことはない。ただ、ソラのためにユウが、身体を売って得た金をぽんぽん放出していくのが信じられなかった。そんなのは、もったいない、と思ったのだ。だから、どうしていいのか分からずに突っ立ったままでいた。
「好きな色とかないの?」
ユウが、ソラの身体に青いシャツをあてがいながら首を傾げた。ソラは、首を横に振った。好きな色、とか、そんなことを考えたことが、これまでなかった。服は、もう着られない、というレベルまでぼろぼろになったら、拾うか盗むかするものだ。
「じゃあ、とりあえずこれで。足りなかったらまた買いに来ればいいし。」
下着と普段着数着を選び出したユウは、特になにも考えていなそうな顔でレジで金を支払った。ソラは、唖然としたままその姿を後ろで見ていた。
「食いもの買って、帰ろうか。」
ユウがソラを振り返り、手招きして店を出ていく。ソラは、慌ててその背中を追った。
「今日から俺は、料理をしてみようと思う。」
ユウが、唐突に決意表明みたいに言って、ソラはちょっと笑いそうになった。でも、笑いはこらえて、無理しないでください、とだけ言った。この人が、ソラのためになにかをしてくれようとすると、その分胸が苦しくなった。
ユウは駅前のスーパーマーケットに入ると、食材を、なにやらよく分からないな、という感じで首をひねりながらかごに放り込んでいった。ソラもよく分からなかったので、黙って後をついていった。そして、なんだか大量に買い込んでしまった食材の詰まった袋をぶら下げ、二人は並んでユウの部屋へ戻っていった。
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