ふたり

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 「座ったら?」  ユウがごく穏やかに言って、自分の隣を視線で示す。でも、ソラはでくの坊みたいに立ったまんま、いやいやするように首を振った。  子供じみたことをしている。自覚はあった。でも、どうしても、おはようございます、と微笑んで、ユウの隣に座って、珈琲を飲んで、というような当たり前のことができなくて。  ソラが、そんな自分に絶望していると、ユウは軽く微笑んで、ポケットから黒い財布を抜き取った。  「だったらさ、ちょっと買い物行ってきてくれない? うち、まじでカップ麺しかないんだよね。ソラくらいの歳ならちゃんと朝飯食った方が良いと思うし。」  ふらり、と、重力を感じさせない動作で立ち上がったユウが、ソラの目の前にやって来て、手の中に財布を握らせる。  「パンと、卵と、ベーコンと、野菜は千切りになってるキャベツでいいや。好きな飲み物も買っておいで。」  ソラは、びっくりして手の中の革製の財布に目を落とした。落とした、というよりは、引きつけられた、が正解かもしれない。だって、ソラは無一文の浮浪児で、金なんか渡したら、持ち逃げするに決まっている。財布の中には、金以外にも、なくしたり悪用されたら困る身分証明書なんかも入っているだろう。  衝撃を受けて固まっているソラの背中に、ユウのてのひらが当てられる。そしてそのまま、玄関まで誘導された。  「靴、まだ濡れてるから、俺のサンダル履いてっていいよ。」  あっさりそれだけ言うと、ユウはソラにサンダルを履かせて玄関から押し出し、がちゃん、とドアを閉めた。ソラはその場に立ったまま、手の中の財布を凝視していた。  もしかしたらこれは、手切れ金だろうか。これを持って、どこか遠くに行ってしまえという意味だろうか。多分、身分証明書やカードの類は抜いてあって。  そう思いついて、財布の中身を確認してみる。すると、当然のようにカード入れにはクレジットカードやキャッシュカード、顔写真付きの身分証明書まできちんと並べられていた。  なんて、無防備なんだ、あのひとは。  ソラは財布を固く握りしめ、しばらくその場で思案に暮れた。そして結局、とっとと買い物をして帰ってくる以外に今自分がするべきことはない、と考え到り、眩しい日の下に足を踏み出した。
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