ふたり

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 駅前のスーパーマーケットで買い物をするとき、ソラは妙に緊張した。万引きは、今日はしない。お金も持っている。でも、自分に黒革の財布が不釣り合いなことは分かっていたから、誰かにそれを見とがめられるのではないか、とどきどきした。見とがめられたところで、悪いことはしていないのだけれど、その悪いことはしていない、には、今日のところは、という留保が付く。万引きは、物心がつくころには日常だった。  ユウに言われたとおりの商品を買い物かごに入れ、好きな飲み物、は、オレンジジュースにした。びくびくしながらレジに並び、代金を支払い、レシートもちゃんともらって店を出る。そして、急ぎ足でユウのアパートに向かった。ユウは、財布が返ってくるか気にしてそわそわしたりはしていないだろう。あの白いきれいな顔に、ちょっと悲しそうな微笑を浮かべて珈琲を飲んでいるのだろう。でも、なぜだか勝手に足が急いた。  アパートの部屋の前につき、インターフォンを押そうとして、ふと思いついてそのままドアノブを回してみると、ドアはあっさり開いた。鍵が、かかっていない。  なんて無防備なんだ、あのひとは、と、ソラは天を仰ぎたい気分になった。   「ユウさん。」  「おかえり。」   「鍵、締めて下さい。」  レジ袋を受け取りながら、ユウはどうでもよさそうな顔で首をひねり、うん、と言った。多分、次からも鍵は締めないのだろう。そういう言い方だった。  ソラは、ポケットに押し込んでいたレシートをユウに手渡しながら、彼の名前を呼んだことも、自発的に話しかけたのも、これがはじめてだ、と思った。だからなんだというわけでもないが、とにかく、はじめてだ、と。  ユウはレシートを確認するでもなく、レジ袋をぶら下げてキッチンに入って行った。ソラも、ちょっと考えた後、くっついて行く。  「手伝ってくれるの?」  ユウが軽い口調で言うから、ソラも軽い感じで頷けた。   「料理とか、したことないんですけど。」  ソラの家は、常に水道もガスも電気も止まっていたし、母親は料理なんかをするひとではなかった。だからソラは、本当に生まれてから一度も料理をしたことがない。ただ、はるかに遠い記憶の中で、父親らしき男のひとがフライパンをふるう姿はあって、なんとなく、あれが料理というものだ、と思っているだけで。  「俺も、ソラくらいのときはしたことなかったよ。っていうか、今もあんまない。」  ユウが壁に立てかけてあったフライパンを手に取り、首を傾げながら火にかけ、ベーコンと卵を投入する。本当に、今もあんまりないのだろうな、と思われる、ふわふわした動作だった。  
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