ふたり

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 ユウが握るフライパンの中で、生卵とベーコンが、ベーコンエッグに変わる様子をソラは一心に眺めていた。珍しいものを見ている、という感じがあったし、自分のために誰かが料理をしてくれている、と思うとさらに珍しいものだと思えた。  ユウは、ソラの熱心すぎる視線にも特にコメントはせず、適当なところでベーコンエッグを皿に引き上げた。その際卵の黄身が割れたが、腹に入れば一緒でしょ、とちょっと笑った。ソラも頷きながら、千切りキャベツの袋を開け、ベーコンエッグの皿のわきっちょに盛り付けた。適量、というのがよく分からなかったのだけれど、これくらいか、と思ったところでユウの顔を見ると、ユウは軽く頷いて、皿を持ってリビングへ向かった。  「食べよう。」  白いテーブルの上に皿を並べ、グラスにオレンジジュースを注ぐと、ユウはちょっと大人ぶったような調子で、いただきますして、と言った。ソラは、笑い出しそうになりながら手を合わせ、いただきます、と呟いた。15歳になるまで、ソラにその手の躾をする人は誰もいなかった。  「夕方くらいに俺、仕事行くけど、ソラは好きにしてていいよ。テレビとか、DVDとか、本とか、勝手に使っていいし。」  もぐもぐと、トースターがないので焼けなかった食パンをかじりながら、ユウが言った。ソラは、はい、と顎を引いただけで、ユウの仕事についてなにか訊いたりはしなかった。ユウは、手についたパンくずを払うと、その手でソラの頭を冗談みたいに撫でた。  「いい子だね。」  いい子。もう、ソラはそんな歳ではなかったし、そんなふうに言われるべき人間でもないことは分かっていた。ここまで生きてくるためには、いい子でいるわけにもいかなかったのだ。だけどソラは、こくりと首を縦に振った。いい子。そんなふうに言ってほしかった夜も、こんなふうに髪を撫でてほしかった夜も、ソラは幾つも越えてきていた。だから、ここで本当のことを言わないで、この温もりを享受したところで、バチは当たらないだろう、そう思って。  朝食を終えると、ソラとユウは台所の流しに並んで食器を洗った。ソラが洗う係りで、ユウが拭く係りだ。ざあざあと鳴る水音にまぎれて、少しだけ話をした。ユウの仕事の話でも、ソラの家の話でもない。朝食の感想と、トースターを買うべきかどうかについてだ。それから、リビングのソファに並んで座って、しばらくテレビを見た。ソラにとって、テレビを見る、という経験がまずレアだったので、かなり集中して見た。ユウは、そんなソラの横顔を眺めていた。そして、窓から射す太陽が傾いてきた辺りで、ユウがシャワーを浴び、髪を整え、出かけて行った。ソラは、その背中を玄関まで見送った。
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