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「寒っ……」  白く視覚化された息がより煽る寒さに、私は体を縮こまらせた。  さてどうしようか。私はすぐに鼻が赤くなってしまうのだけれど。  このような、地元からは離れた場所で知り合いに会うことはまず低確率だろうが、そろそろ耳も痛くなってきた。  寒いのはあまり得意ではないから、どこかここらで休もうか。  そろそろお腹も空いてきた頃合いだし。  そう考えた私は、地図を片手にそれらしい場所を求め大通りに出た。  伝統、格式を重んじた国柄――ヴィオーラ。  二十歳になって、目的のために旅を始めた私がこの国の土を踏んだのは、三週間ほど前のこと。ヴィオーラで一番寒いと言われている北端エリアに着いたのは、つい先程だ。  極寒の地だとは知っていたが、ここまで自身の出身国との寒暖差が大きいとは思っていなかった。  まず到着早々、真っ先に防寒具へお金を使ってしまった。旅の資金はあまり多くないのだが、耐えられるものではなかった。  まあ困ったらいつものをやればいい。少しは足しになる。  何よりも体が資本なのだから、ケチケチしていては良くない。 「さすが、古き良き国」  大通りに連なるのは、昔ながらの建築物。もちろん今も使われている。  かつて城であり要塞だった博物館。中心部にある大聖堂は、ひときわ目を引く観光地だ。  そんな建物を横目に見つけた、喫茶店。私は寒風から逃げるように、その扉を潜った。  荷物である楽器を置いて、窓際の席に落ち着く。店内が暖かいので、この席でも問題なく温まることができそうだ。  何より他の客と距離を保てる。音楽以外ではできる限り人と関わらずに済むこと。これが最優先事項だ。  この荷物に触れられたくないし。 「さて、と。どれにしようかな」  さほど迷うことなく体の温まる料理に決めて、店内に流れる(サウンド)に耳を傾ける。  伝統的なトラッド。この国でよく耳にするその音色(ティンブル)に、思わず頰が緩んだ。  気を付けないと無意識に鼻歌を歌ってしまいそうだ。  それほどに私は浮かれていた。大好きな音楽に触れられて、喜んでいた。  私はこの音楽観に触れたくて、ヴィオーラを訪れたのだ。  そして出会いたいものを探すために、まずこの国へ来た。  最近はこのワールド・ミュージックを基盤にしたバンドが話題になっていたな、なんて思いながら、運ばれてきた食事を楽しんだ。 「さて、どこへ行こうか」  食事を終えて、地図を広げながら何ともなしに呟く。
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