「呪の謝罪」

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 「あの~、こちらは“ニシオカ サトシ(体験者 仮名)”様のお電話で 間違いないでしょうか~?…あ、申し遅れました。 ワタクシ、有限会社”カース・オブ・クリエイティブ”のスズキと申します。 ハイ、ハイ、この度は弊社のサービスで、重大な過失がありましてですね、ハイ」 中年の管理職が、バーコード頭を手拭いで拭きながら、受話器の前で、平身低頭している姿が目に浮かんだと言う体験者の聞き取りは、 次の瞬間、彼の含み笑いで一気に“笑い話”の様相を呈していく。 「ククッ、それにしても、会社名…あ、世代じゃないすか? ほら、遊〇王のカー〇・オブ・ド〇ゴン!攻撃力2000で星5の奴、 何処の誰か知らないが、そんな中二丸出しの名前つけるド阿保がおるんかいな?と思いましてね。意味にしたって“呪い制作会社”なんて、バカみたいでしょ? 大方、個人情報漏れまくりの昨今を象徴してる、 イタズラ電話か、詐欺紛いの奴だと思いましたが、まぁ、暇だったし… 内容のインパクト半端なかったんで、しばらく聞く事にしました」 こちらの簡単な応答に対し、相手は水を得たと言わんばかりに、早口で言葉を捲し立てていく。 「ハイ、ご理解頂き、恐悦至極、真に感謝…あ、いえいえ、そうでしたね。すいません、本題を忘れていました。私どもの会社のサービスは、まぁ、英語で誤魔化してはいますが、あ?わかります?えっ?遊〇王?ああ、そうですね。 大体そうです。お察しの通り“呪い代行”を生業としています。ハイ、人に呪いをかける、藁人形とか、五寸釘のアレです。忙しいし、生きてくのも辛いし苦しい。 とゆうか、そもそも、この忙しさ、苦しい原因を取り除きたい、呪いたい!でも、時間と労力が…心の安らぎと呪うは分けたい、プライベートを大切にしたいクライアントさんに対して、わたくしどもの出番と言う訳でしてね。はーい~… まぁ、このハイテク社会において、呪いと言うのも、どうですかと? ハイ、おっしゃる通りです。 でも、まぁ、これが私共の仕事ですので、信じる、信じるは貴方次第って、 これは某芸人さんの受け売りですがね? あ、すいません、話が長くなってしまいまして。 とにかくですね。端的に申しますと、ウチでご依頼のあった呪い案件がですね?呪う相手に対して、今一つ効果が上がっていないと、お客様からクレームがありましてね。 そこで、私共で調査した所、とんでもないミスが明らかになった訳でして、ハイ… あの~ニシオカ様?お勤めは〇〇〇センター?(市内ごみ収集業務事業所) あ、そうですよね?そちらのご同僚の方で“S”と言う人物と仲がよろしい? そうですか、親しくしているんですね?でしたら、込み入った話になるんですが、 お時間は? あ、大丈夫ですか?それならですね。あの~、そのSさんとは、何か持ち物等で共有されているモノはありますでしょうか?」 恐縮した喋りが、少し怖くなったのは、この頃だったと言う。 体験者の職場には、確かにSと言う人物がいて、彼とは仕事で使う作業着を一緒に洗濯させられていた。 その事を伝えると、間髪入れず、受話器の向こうから、いかにもな感じの声音が返ってくる。 「あ~、そうでしたか~やっぱりねぇ~…いえね、私どもの施工させてもらった呪いと言うのはですね?その対象の人と衣類の洗濯ですとか、持ち物を共有しちゃうとですね。その人にもね?障りが出ちゃうんですよ?ハイ。 えっ? “呪いって被服からでも伝染るんですか?コロナみたいに?” ですか?勿論、伝染りますよ~?だから、しっかり予防しないと~ あ?最近お体に変化はありませんか?疲れやすくなったり、頭が痛いとか?そんな事は? “少し、疲れた気がする?” あ、それですね~、気を付けて下さい。今に血とか出るようになりますから、えっ?何処から?そりゃもう、いろんな所から、まぁ、それにはまだ至らないでしょう。ウン、今のところはね… あ、そうです。霊障です。今もウチの若い子が一生懸命頭から蝋燭垂らしてね。ドジな子なんで、五徳被るの忘れたから、最近の若い子は五徳とか知らないから」 「どうすればいいんですか?」 世間話のように喋る声をつい遮ってしまう。いつの間にか、相手の話に呑み込まれていた。確かに最近、体の不調を感じる事が多くある。段々と冗談や他人事では済まない話題になっていくのを感じたと言う。 こちらの気持ちとは裏腹に、受話器からは努めて明るい声が響く。 「簡単です。Sさんと洗濯を一緒にしなければいいんです。ウチでも、勿論、呪い不拡散の護摩焚きはさせてもらいますけどね~?とにかく衣類もそうですが、あまりSさんとはお付き合いされないように、今後も含めてですね。ハイ、ハーイ いや、こんな事は滅多にないケースなんですが、真に申し訳ない。ご迷惑をおかけしています。それでは、ハイ、ハーイ」 こちらが何か問いかける前に、電話は一方的に切れた。 「すぐにリダイヤルしました。でも、おかけになった電話云々で繋がらない。 そこだけは、呪い代行っぽくて、妙に納得しました。 まぁ、確かに職場のSってのは、あまり好きになれない奴です。図々しいし、 食堂でも横はいりとか、人から物借りても、全然返さないし…でも、自分は何も悪い事してないって顔して…殺したいくらい、憎い訳じゃないんだけど、何か嫌な奴… そんな相手です。だから、あの電話はキッカケになったと言うか…」 翌日から体験者は、それを実行した。洗濯は自分の家でやるとSに言い、他の人間を当たってくれと、やんわりと当たり障りのない感じで断った。 「なんせ、こっちとしちゃ、自分が大事ですから。Sなら、正直呪いたいと思う相手に、事欠かないと思いますし。巻き添えはゴメンですからね」 体験者の声に相手は渋々と頷き、了承を示す。ただ、去り際に “何だよ?お前もか” と言う言葉が、少し気になったと言う。 それからSは仕事中の奇行が目立ち始め、孤立し、最後には職場を去った。 同僚達によれば、地元からも姿を消し、今は行方も分からないと言う。 話の中で、わかった事がある。彼等もSからの頼み事や金銭の貸し借り等を 断っていた。 この拒否を始めたのは、体験者と同じ時期… 「気持ち悪いなぁと思いましたけど、聞きました。皆、電話受けてました。勿論、呪い制作の会社から…それで、思ったんですが… あれはそーゆう“呪い”だったのかなぁ…と つまり、呪いをかけた相手とモノ共有したから、障りが出たと言う話をし、    こちらに危機感抱かせて、Sから距離を置くように仕向ける。 アイツはいろんな奴に依存してましたから、それ、全部拒否られて、村八分… きっと、職場だけじゃなく、友人や家族にまで連絡して、完全に孤立させたんじゃないかと… 正直、疲れとか頭痛なんて、社会人なら、誰でもなるし、或るいは、それくらいの簡単な呪いくらいなら、かける事が出来る連中なんじゃないかなと…よくわかりませんが…ただ」 一旦、言葉を切った体験者は、最後に考えるような仕草で、こちらに問いかけた。 「あの謝罪は、どっちの意味だったんでしょうね?呪いをかけてゴメンなのか?それとも、呪いに巻き込んでゴメンなのか?まぁ、どっちにしても、気味悪いですけど…(終)」
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