<6・嫌な予感ほど当たるもの。>

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<6・嫌な予感ほど当たるもの。>

 魔法対戦を行うフィールドに並べられた、紫色の五つの箱。  まるでクリスタルの素材のように見えるそれらは、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。多分、クリスタルが魔力を通しやすい素材だから、なのだろう。前面は扉になっていて、鍵を差し込んで開ける仕組みになっている。このうちのどれかから二つを選んで、クロエはサナとともに戦わなければいけないのだが。 「……クロエ?」  実技試験が始まった直後。五つの箱の前で固まったクロエをおかしいと思ったのだろう。サナがぴょこん、とポニーテールを揺らしながら振り返った。 「どうしたんだ?……魔力の探知、できないのか?まだ時間はたくさんあるから、ゆっくりやっていいとは思うけどよ」 「……いや」  クロエは首を横に振る。そして、一言呟いた。 「何かがおかしい」  実は、自分達の番がくる直前から違和感は覚えていたのだ。扉を一枚隔てていても、近くにある強大な力は大体わかるものである。クリスタルの箱に封じられていようが関係ない。これでも百戦錬磨の魔王なのだ、その力を察することくらい訳ないことではある。  問題は。 ――なんだ、これは?  五つの箱を順繰りに見た。クロエには、箱の中に何が入っているのか手に取るようにわかる。五つの箱に入っているのは全て――違う属性のドラゴンだ、ということも。  ドラゴンは、多くのモンスターと比較しても一線を隠す存在だ。一部の国や地域では神と崇められるほど強大な力を持っている。本来、魔法使いの見習いなんかが相手にするような敵ではないのだ。  勿論、この試験では五つの箱のうち、一つくらいはかなり強いモンスターが入っていてもおかしくないと思っていた。だが、それは間違っても、魔法使い見習いが瞬殺されかねないようなクラスのモンスターであるはずがない。仮にドラゴンを引っ張り出してくるとしても、箱のうちの一つ――それも幼体レベルが精々ではないだろうか。  なのに何故。自分達の試験に限って、五つの箱全てがドラゴンで、どれもこれも成体なんて馬鹿げたことになっているのか。  勿論、クロエは前世でドラゴンと戦ったことは何度もあるし、力を解放していいのであればなんら問題なく全滅させることができるだろうが。 ――まずい。……どれか一つでも開けたら、即座に攻撃が飛んでくる。サナが巻き込まれるのは避けられん……!  自分も、全力で戦って魔王であることがバレたらまずい身。その上でサナを守って、この会場の人々全員も守るなんてそんなこと本当に可能だろうか? 「……サナ」
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