<6・嫌な予感ほど当たるもの。>

4/4
前へ
/136ページ
次へ
 危険を察知した観客たちが慌てて逃げていく。だが、幸いなのか必然なのか、ドラゴンたちは揃ってクロエとサナだけを見ていた。自分達こそが、最優先の討伐対象だと言わんばかりに。 「サナ、緊急事態だ!フィールドの外へ逃げろ!」 「く、クロエ、で、でも腰が抜けて……!」  無理もない。ドラゴンのプレッシャーは半端ない。距離が離れたところにいた観客たちでさえへたりこんで動けない者が散見されるほどなのだ。目の前で殺気をもろに浴びせられた少女が凍り付くのも仕方ないことではあるだろう。  だが、その隙を見逃してくれるほど優しいドラゴンではないわけで。 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」  真っ先に動いたのは、アイス・トール・ドラゴンだった。その口ががばりと開かれる。まずい、とクロエは冷や汗をかいた。そのモーションは、見覚えがある。  自分の身だけ護るなら防御魔法でいいが、サナも一緒となると――。 「伏せろ!」  こんな時、自分の防御魔法の下手さが嫌になる。仕方なくサナを突き飛ばして自分も地面に伏せることにした。  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!  氷の矢が、次々と地面に突き刺さってく。 「がはっ!」  その一本が、腰から腹までを貫通した。思わず血を吐いてうずくまるクロエ。 「く、クロエええええええええ!」  サナが絶叫する。慌てて駆け寄ってこようとする彼女に、“大丈夫だから!”と叫ぶクロエ。 「だ、大丈夫だ、致命傷ってほどじゃない。それよりも……」  強引に氷の矢を引っこ抜く。失血死を防ぐためなら、本来刺さったままにしておいた方がいいはずだった。が、流石にこれをお腹に刺したままで戦うのは難しい。幸い、自分は痛みに強い方だという自負がある。こんな程度で死ぬつもりはない。あとで輸血と魔法で強引に治療しよう、と決める。 「あのドラゴンたちを、さっさとなんとかしないと……スタジアムにいる全員が死ぬかもしれん」  もう一度観客席を見た。へたりこんでいる観客数名、他人事だと笑い転げているお嬢様たち数名。審査員を務めていた先生たちは、対処しようと走り回っている状態。  人目がある。できればやりたくなかったが、仕方ない。   「なんとかするアテはある、サナ、力を貸してほしい」  実務試験前に考えていたプラン。  仕方ない、ここで実行に移すしかあるまい。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加